ファッションクロノロジー
写真を豊富に掲載し、代表的な衣装や化粧などを丁寧に説明しているので、ファッション年代記がよく分かります。
原書名は The Chronology of Fashion: From Empire Dress to Ethical Design。著者のNJ Stevensonは、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業し、1996年からファッション・ライターやスタイリストとして活躍しています。
そのため本書はイギリスを中心としたファッション史になっています。地域をイギリスに絞った分、西洋服装史と題したヨーロッパてんこ盛りのファッション史の図書類よりも遥かに分かりやすいです。
NJ・スティーヴンソン『ファッションクロノロジー』古賀令子訳、文化出版局、2013年
取り上げられたデザイナーとテーマ
The Shift Dress, early 1960s(シフトドレス・1960年代前半)、Mary Quant b.1934(マリー・クワント・1934年生まれ)、The Mini mid-1960s(ミニスカート・1960年代中頃)、The Sixties Female(1960年代の女性服)、André Courrèges b.1923(アンドレ・クレージュ・1923年生まれ)、The Space-Age Outfit 1964-69(スペースエージの服装 1964~1969年)、Provocation 1964-1969(挑発・1964~1969年)。
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この内、The Mini mid-1960s(ミニ・1960年代中頃)は、イギリスの画期的なファッション時期を指すThe Swinging Sixties(スウィンギング・シクスティーズ)を取り上げ、その状況下でミニがロンドンを拠点に展開した点を強調。イギリスの設計師(デザイナー)たちが宣伝をするためにモデル達を連れてアメリカ旅行をしたと述べられています。
かつてガブリエル・シャネルやポール・ポワレたちも宣伝にアメリカへ行ったことが思い出されます。そこで紹介されている写真やイラストは、ミニスカートのスケッチ(マリー・クワント)、綿印刷を素材にしたミニ・ドレス(オジー・クラークとセリア・バートウェル)、紫スウェードの長袖ミニ・ドレス(ジーン・ミュア)、ポップアート柄の麻ミニ・ドレス(マリアン・フォールとサリー・タフィン)、ユースクエイクの設計師として有名なベッツィー・ジョンソンの横縞Aラインのミニ・ドレス、以上です。イギリスの設計師たちの作品と説明に集中しています。
次のThe Sixties Female(1960年代の女性服)では60年代のモデルで最も有名な、ロンドン北のニースデン出身のツィギー(レズリー・ホーンビー)が取り上げられています。ツィギーの1枚の写真を大きく載せ、それをヘア、アイメークアップ、靴、ベビードール・ドレスの4つに分けて解説。
ツィギーは痩せこけた不格好な体型をしていましたが、見方を変えると、脚が長くChild-Woman silhouette(子供女性の輪郭)で中性的な印象ももつとして、爆発的人気が出たと結んでいます。アメリカでは1930年代以降から盛り上がった乳房が美的基準になっていましたが、イギリスでは少なくとも60年代に胸部は強調されていません(フランスでも)。
アンドレ・クレージュへの言及
そして、ようやくフランスのアンドレ・クレージュ André Courrèges (1923年生)。土木工学やル・コルビジェの建築等に関心の強かったクレージュの略伝が前半で述べられ、次いで作品の傾向へと話は流れます。しかし、クレージュで必ず述べられるミニスカートやミニ・ドレスに関する記述が一切ありません…。
あくまでも著者にとってミニの根源はロンドンにあるようです。それ以外ではクレージュの主な傾向がきちんと押さえられていて、ミニの叙述が無い分、あまり述べられたことのない配色の上手さ、「縁や胸のシームを得意のくるみ仕上げで目立たせ」る手法(つまり縁取り=パイピング)、1967年の全身網タイツの発表などに触れています。
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アンドレ・クレージュ(André Courrèges / Andre Courreges)制作のニット製キャット・スーツ。knitted catsuit by Andre Courreges via 1960s | Vintage North
著者はアンドレ・クレージュのミニ開発を全否定している訳では、もちろんありません。クレージュのミニには新たな素材を用いた斬新性がある点(184頁)、ミニスカートの裁縫師として活躍したがために盗用に悩まされ、1965年に事業の大部分をロレアル社に売却した点、その直後からキャット・スーツ、バニー・スーツ(白のサテン)、カットアウト・ドレス等の衣装を制作していった点(187頁)等が明記されています。
最後に、本書の醍醐味はイギリスを中心に描いたファッション史という点です。その分、広がりは無くても、衣装の展開を明確に辿ることができます。
NJ・スティーヴンソン『ファッションクロノロジー』古賀令子訳、文化出版局、2013年
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