やさしさの漂うスポーティーエレガンス:アンドレ・クレージュ
これは「マダム」1978年4月号10頁に掲載されたクレージュ社のツーピース・ドレスです。
衿ぐり、ポケット、ショートスカート、軽めの配色が特徴です。
この写真に付された宣伝文を分析します。
リード文
直線的でスポーティーなデザイン、ダイナミックな色使いに特色を見せる、クレージュですが、中柄のプリントを使った女らしい街着にもスポーティーエレガンスの香りが感じられます。しゃきりしたスパンレーヨンの材質感を生かした無駄のないシルエット、五分丈の袖、腰の長さでドローストリングしたブルゾンのラフなイメージに、ローウエストで切り替えたフレアスカートが、やさしさを添えて、しゃれたタウンスーツにしています。色味をおさえた厭味のないコーディネートで、マダムらしい気品と落ち着きをさりげなく表現してください。つば広の帽子でエレガントな表情をつけてもすてきです。
出典「マダム」鎌倉書房、1978年4月号10頁
リード文批評
「直線的でスポーティーなデザイン」と記されています。スポーティとはスポーツウェアからデザインのアイデアを借りた、動きやすそうな服ですがスポーツウェアではありません。
「クレージュですが」で全文を受けますが、接続詞の「が」は当時の状況を踏まえなければ分かりにくいです。全文は直線、スポーティー、ダイナミックという形容詞が出ており、これは男性的なイメージを示す言葉です。これに対して後文で女性的なイメージを述べるわけです。
ラフなイメージと優しさを足すとタウンスーツになるという加算方法が記されています。タウンではないドメスティック(家内)のスーツがあるかのような錯覚に陥りますが、宣伝文は《タウンで着る堅めのスーツではない》というニュアンスを付け足したいのでしょう。
広告写真批評
アンドレ・クレージュはスポーティーでカジュアルな衣装を提案しました。その代表的なシリーズがミニスカートやミニドレスでした。これらのシリーズは若年層に人気が出ましたが、中高年の女性には着にくいものです。
1960年代末になるとクレージュは中高年層にも着用できるドレスを製作していきました。ウエストの緩みはクレージュらしい、女性への配慮がにじみ出ています。このような展開をふまえて、この広告写真が貴重なものであることは間違いありません。
しかし、この写真全体でクレージュのスポーティーでカジュアルな衣装、しかも女性が快活に動けて、それなりの女性らしさを維持しているのでしょうか。答えはノーです。
この写真の女性らしさ(あるいはマダムらしさ)はむしろ靴に表れています。ハイヒールのパンプスは走りにくいからです。そこに若年層との違いを見せているでしょう。クレージュのミニスカートやミニドレスにはスニーカーやフラット靴を組み合わせますし、クレージュ自身、ハイヒールをばかげたものだと断言しています。
以上のことから、セレクトされたこの写真の靴はアンドレ・クレージュの女性解放の理念を台無しにしています。女性解放といっても少女を解放することとマダムを解放することとは一元的にできないのかも知れませんが…。
おわりに
クレージュのミニスカートやミニドレス開発の略史や理念は「アンドレ・クレージュ」をご参照ください。
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