ファッション・ボックス
ファッション・ボックス:ビキニ、トレンチコート、ゲピエールなど16種の衣服を取り上げ、映画女優が着用している場面を映画作品から図録化したものです。取り上げられた衣服は、リトルブラックドレス、白いシャツ、ジーンズ、テーラードスーツ、ビキニ、タートルネック、ホットパンツ、ロンゲット(ペンシルスカート)、Tシャツ、トレンチコート、ミニスカート、ツイン・ニット、アンドロジナス、ゲピエール、カプリ・パンツ、イヴニング・ドレスです。
本書の内容
これらの項目別に、著名な哲学者や衣装設計師たちの名言、その衣服を代表する女優(アイコン)と映画、そして衣装設計師が記されています。それに続いて衣服別に映画史を述べる形で2ページほどの説明があります。その後はひたすら映画作品、ファッション雑誌、記者会見に登場する女優たちの写真がてんこ盛りに掲載されています(各項目10~20枚ほど)。
衣服よりも映画に比重が置かれていて、ミニスカートの項目は、ツィギーとマリー・クワント、『欲望』とヴェルーシュカ・フォン・レーンドルフ(Veruschka von Lehndorff)という組み合わせから始まり、アンドレ・クレージュの作品は一切出てきません。その点のバランスの悪さは否定できませんが、『ダイナスティー』のヘザー・ロックリアや『氷の微笑』のシャロン・ストーンなどの写真が出てきますので、とりあえず良しとします。
女優ら著名人に印象付けられた衣装、たとえばマドンナ(madonna)とゲピエール(Guepiere)ですが、このような角度から映画史を捉え直すのは意外に斬新です。
本書の浅さ
他方で不足な点も目立ちます。たとえば、東京武道館でopen your heartを歌ったゲピエール姿のマドンナと、『紳士は金髪がお好き』で振り向くMarilyn Monroe(マリリン・モンロー)のどちらを偶像とするか、あるいは他の女優や歌手を持ってくるかは、かなり賛否の分かれる所で、もう少し掲載基準を明確にするか体系化すべきです。また、マレーネ・ディートリッヒ(Marlene Dietrich)が最も似合うとされるトレンチコートの箇所では『暗くなるまでこの恋を』のカトリーヌ・ドヌーヴ(Catherine Deneuve)も掲載されています。次の写真はその一場面ですが、同じドヌーヴでもたった数秒でトレンチコートからレオタードへと衣装(または偶像)が変わります。
それを一つの偶像(トレンチコート⇔カトリーヌ・ドヌーヴ)として落とし込めるのは方法的に無理があります。著者も次のように述べています、「カリスマというものは「曖昧」であるが、やはりナンバーワンのカリスマ性の持ち主といえば自ずから決まってくる。マレーネディートリッヒ、彼女こそ(トレンチに)ふさわしい」(264頁)。偶像とみなす根拠はこの曖昧なカリスマとしか記されていません。グレタ・ガルボ(Greta Garbo)では駄目なのかとも屁理屈を足したくなります。
各写真には被写体、映画作品(または撮影状況)、年月などの簡易な情報が記されているだけで、衣服と女優との関係、あるいは写真自体の説明がありません。また、写真出典一覧と映画作品一覧が巻末にありますが原文です。せっかく女優・歌手、映画・写真、そして衣服・衣装の関係を視覚的に分かりやすく振り返る図鑑になっているので(そのため本書は入門書としては使えます)、せめてカタカナ表記に変えた五十音順の固有名詞索引が欲しい所です。
アントニオ・マンチネッリ『FASHION-BOX(ファッション・ボックス)―永遠のモード―愛すべき時代のアイコン―』JEX Limited訳、青幻舎、2010年
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