セットイン・スリーブ
セットイン・スリーブ(set-in sleeve)とは袖つけの基本形で普通袖のこと。
英語でset-in sleeve(定型袖)、attached sleeve(付設袖)。
肩から脇にかけて縫った場合の袖、または袖つけ作業をさします。縫い目はほぼ垂直になっています。
アームホールと密接に関連
辞書類では「正常なアーム・ホールに設置」という風に説明されることが多く、アーム・ホール(アームホール/arm hole)とは身頃(胴体)にある腕を通す穴のことを意味します。
セットイン・スリーブでは衣服の肩と腕の境目に縦のラインが入っています(下図参照)。
アームホールの形
アームホールをトルソー(ボディ)の横からみるとオニギリのような形になっています。
パターンを引く時にも綺麗なおにぎり型を作ると設計や裁縫が上手くいくといわれます。
スリーブ(袖)の種類 : 現代旗袍と現代アオザイの違い
また、スリーブを意味する言葉に、身頃の布を袖にも用いるドルマン・スリーブや、襟元から脇へ縫い合わすラグラン・スリーブがあります。
前者は肩と袖の間に縫い目がなく、後者は斜めに縫い目が生じています。
現代旗袍と現代アオザイを比べると、襟とタイトなラインが似ている一方で、スリーブが決定的に異なります(現状では)。
現代の旗袍は多くがセットイン・スリーブで、アオザイはラグラン・スリーブ(raglan Sleeve)です。前者の場合、肩のラインは水平に近いため肩幅の広い人に似合い、後者の場合、肩のラインが斜め下へ落ちるため、肩幅の狭い人に似合います。
セットイン・スリーブの種類
パフ・スリーブ : puff sleeve
パフ・スリーブの種類
真中が最も膨らんだものは特にランタン・スリーブ(提灯袖、lanern sleeve)といい、提灯や珠算玉のようになっています。
パフ・スリーブのうち、丈が肩から肘くらいかけて膨らんだ袖(中袖)はバルーン・スリーブ(風船袖、balloon sleeve)、またはメロン・スリーブ(メロン袖、melon sleeve)という場合もあります。
長袖の場合はマトン・スリーブ(mutton sleeve)が代表的(後述)。羊の脚のようにみえるのが名前の理由。
なお、ビショップ・スリーブ(bishop sleeve)は、袖の膨らみが肘から袖口までに取られており、マトン・スリーブと対照的なもので、パフ・スリーブには含めません。
パフ・スリーブの出現期と変化
パフ・スリーブが登場したのはルネサンス期といわれ、17世紀(バロック時代)にはパフを幾重にも重ねた袖が現れました。
その後、19世紀にパフ・スリーブは数度にわたり流行しました。1830年頃は半袖、世紀半ばと1890年代にはマトン・スリーブを伴ない、膨らみに変化が生じました。20世紀は1930年代に流行しました。
上の写真はパフ・スリーブが身体を留める支持体として機能していたことを示しています。この袖はアンダー・ピニング(基礎増強)に用いられたり、袖自体の構造に組み込まれたりしました。
スリーブという支持体はしばしば下向き枕になりましたが、ワイヤーやステッキで作られた肋骨を有するチンツは、さらに膨らみの大きいランタン・スリーブの形状になります。
このようなサポートがドレスに縫い付けられない場合は、スリーブ支持体は、コルセットの肩ひもにタイで取り付けられました。 1830年代には、これらのストラップは身体から45度以上の角度で配向されました。
このようなスリーブの塊は印象的ですが、パフ・スリーブの初期形態は肩のラインを崩さない程度しか膨張していませんでした。
その代わり、パフ・スリーブは上腕部分に不安定に姿勢が取られていたため、袖の輪郭が単純に肩から降りるラインで続いていたわけです。
1890年代には、巨大な膨らんだパフ・スリーブが流行し、今でも見かける新しく肩の上に覆い被さった状態になりました。
ランタン・スリーブ : lantern sleeve
マトン・スリーブ : mutton sleeve
マトン・スリーブの語源と歴史
名称の由来は羊の脚(leg of mutton)に似ていることから。したがって正式名称は、レッグ・オブ・マトン・スリーブ。フランス語では、マンシュ・ア・ジゴ(manche à gigot)、略してジゴ。これをヒントに英語ではジゴ・スリーブとも言います。
レッグ・オブ・マトン・スリーブは中世に出現したといわれています。
その後、17世紀、及び19世紀中後期のヨーロッパで広く見られました。この時期には高い立襟、細いウェスト、そしてレッグ・オブ・マトン・スリーブという組み合わせのブラウスが大人気でした。近年ではウェディング・ドレスをはじめ、コスチューム・プレイ(コスプレ)用のメイド服などにも多用されています。
ビショップ・スリーブ : bishop sleeve
ビショップ・スリーブの種類と語源
ビショップ・スリーブは、肘から袖口がパフ・スリーブであっても、肩あたり(袖山)が盛り上がらず下降気味になっているものが多く、ドロップド・ショルダー・スリーブ(dropped shoulder sleeve)の一種ともいえます。
このような、ビショップ・スリーブのうち、ドロップド・ショルダー・スリーブになったものは、特にペザント・スリーブ(農婦袖/peasant sleeve)、またはブラウス・スリーブ(blouse sleeve)と呼ばれます。ヨーロッパの農民服のブラウスによく見られたことに由来します。
最近では長袖のランタン・スリーブともいわれることがあります。ビショップ・スリーブの語源はカソリック・アグリカン派(英国国教会)のビショップ(司教・主教)の僧服から。フランス語でマンシュ・エベック。
関連リンク
- パフスリーブのワンピースの製図 : 型紙、イラスト、説明文でパフ・スリーブのワンピースの作り方を解説。
- パフスリーブ大好き☆ ? – 服飾専門学校講師 yuca先生のクローズメイキング講座 : 文化式婦人服袖原型の写真を駆使し、パフ・スリーブのパターン展開を詳述。
- パフスリーブワンピース(リカちゃん) 「パプペポ」着せ替え人形の手作り服の作り方 : リカちゃん人形をモデルにパフ・スリーブのワンピースを作成。かなり詳しく写真と説明文が載せられている。
- Renaissance and Regency Rummage Repository: The mysteries of sleeves and a few other arcane terms in Regency dress. : ルネサンス期のドレスを取り上げ、スリーブその他の用語群にみる摩訶不思議を追及。イラスト付きで読みやすい。
- Different Types Of Sleeves : さまざまなイラストと写真を使って、スリーブを説明。パフ・スリーブ、ラグラン・スリーブ、ドルマン・スリーブ、マトン・スリーブ、ペタル・スリーブ、ペザント・スリーブ、ジュリエット・スリーブ、キモノ・スリーブ、ビショップ・スリーブ、ベル・スリーブ、ラグラン・スリーブ、ドルマン・スリーブ、ランタン・スリーブなど。
- Designer fabrics by the yard, sewing patterns and buttons : 「pattern」は絵が豊富で、「view pattern back」を押すと型紙も見られる。How to make the jigot sleeve. ジゴ(マトンスリーブ)の作り方 – YouTube : レッグ・オブ・マトン・スリーブの作り方を文字と映像で解説。
- マトンスリーブにそでの型紙を改造する方法 – ダウンロードの型紙屋さん組み合わせパーツ – 楽天ブログ(Blog) : プリンセスラインのワンピース型紙改造法の一つとしてレッグ・オブ・マトン・スリーブ作成をイラストと説明文で紹介。
- ぱたんなーの型紙便り** レッグオブマトンスリーブ風・Doll編 : 人形に着せた実写真、トルソーの実写真、型紙、解説。かなり詳しいレッグ・オブ・マトン・スリーブの作り方。
- あにゃ的冒険日記* – 巴マミ コスプレ衣装 : コスプレイヤーがランタン・スリーブを目指しつつ結局はレッグ・オブ・マトン・スリーブになってしまった日記。制作過程の詳しい説明・写真、着衣写真。
- Leg o mutton « Te Papa’s Blog : 19世紀末の典型的な婦人向けブラウスのイラスト。ハイ・カラー(高い立襟)、細いウェスト、レッグ・オブ・マトン・スリーブ。
- Bodice c.1890’s; Unknown; c.1890-1900’s; 1990_1435 – The Kauri Museum – Matakohe on NZMuseums : 1890~1900年代に作成されたボディス(婦人用胴着)の前後1枚ずつの写真。綿製ギャバジンでレッグ・オブ・マトン・スリーブになっている。
- History of Fashion and Dress- The Edwardian Era : エドワード期のファッションとドレスの歴史。ページ中ほどにレッグ・オブ・マトン・スリーブのガウンの画像が2点確認される(いずれも1890年代)。もっとも、これらは半袖なので、パフ・スリーブであってレッグ・オブ・マトン・スリーブとは言い難いが。
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- ビショップスリーブへの展開 | Gothic & Lolita Handmade Club : ビショップ・スリーブの製図を7点紹介。製図方法やコツを説明。ゴシック&ロリータ服を自作する人のための総合支援サイト。
- Fate/ZERO セイバー(甲冑) : コスプレイヤーの制作日記。パフ・スリーブの型紙から改造して上下に分けて縫い直し。
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