光ったドレスを着るとき:鈴木宏子デザイン

1960年代ファッション
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光ったドレスを着るとき:鈴木宏子デザイン

ここに紹介している記事は「婦人画報」1967年12月号20頁~23頁に掲載されたものです。表紙と目次はこちら
「ドレス相談室」と副題し、読者からの質問を受けつけています。デザイナーまたは編集部が衣服やコーディネートの写真を参照させながら文章で返事をしています。
4点のドレスが写真で紹介されています。いずれもデザインは鈴木宏子、写真は藤井秀喜、生地提供は銀座ストック商会、ヘアスタイルは近江礼一美容室。
見出し・小見出しは私がつけました。私の文章は「批評」箇所です。

質問と回答

質問

金糸や銀糸のはいったキラキラ光った華やかなきれ地がたくさん出まわっていますが、一度着てみたいと思います。こんな生地はどんな場合に着るものでしょうか。またそのデザインは?(東京・上原美子)

出典「婦人画報」1967年12月号20頁

質問文批評

人気のラメ入り生地を使った服を着るTPOやデザインを教えてくれという趣旨です。
面白いのは生地を着るという質問者の発想です。洋服を着なれているならラメに意識が集中しているのでしょう。和服を着なれているなら生地を着るという発想に引きずられているのでしょう。いずれかです。

回答(お答え)

ご質問のきれ地は、ふくれ織やオーガンジーやジャージーなどに金糸や銀糸を織りこんだものと思われますが、今年はこの光沢の美しいきれ地が全盛のようです。光沢の弱いものは昼間の服になさっても結構ですが、特に光りの強い華やかな生地は、これから多いパーティー用の服におつくりになるとよいでしょう。

出典「婦人画報」1967年12月号20頁

回答(お答え)批評

ふくれ織を使った凸凹の生地やラメ入りの生地を指すのだろうと回答者は対象を固定させます。
光沢の弱いものは昼間のパーティではない外出着、光沢の強いものはパーティ用。質問者は着ることを尋ねていますが、回答者は制作することを念頭にアドバイスしています。1967年はまだ生地の方が吹くよりも安かったでしょうから親切な回答だといえます。
ふくれ織生地やラメ入り生地が人気だという点は、同じ号のルリ・落合も指摘しています。
夜の集まりに着るコートとドレス:ルリ・落合デザイン
ここに紹介する2点の画像とリード文は「婦人画報」1967年12月号14頁・15頁に特集された「夜の集まりに着るコートとドレス」です。ルリ・落合が衣装デザインをしています。今回のルリ・落合のリード文が1967年に存在したことに驚嘆します。

夜の装いについての小事典:ルリ・落合
ここに紹介する「夜の装いについての小事典」は「婦人画報」婦人画報社、1967年12月号18頁・19頁に掲載されたものです。今号は「夜の集まりに着るコートとドレス」を特集していて、その延長にこのコーナーが設けられていたと考えられます。

回答の詳細

ゴーゴーブーツ

パーティーになにを着てゆこうかしら?と迷った結果、和服に逃げこむ方もありますが、ゴーゴーだ、シェイクだと踊る若い人のパーティーでは、和服の美しさは全く意味のないもの。むしろ時代錯誤のようにみえてしまいます。それにしても、パーティーというときにかぎって、どなたも自信を失ったように、着るべき服が正しくえらべないというのはどうしたことでしょうか
「婦人画報」1967年12月号20頁

リード文批評

回答者が念頭におくのはゴーゴーとシェイク。シェイクは腰を振ることですからダンスを想定しています。そのための足元はゴーゴー・ブーツが人気あるということでしょう。ここにアンドレ・クレージュの人気が確認できます。
このようなパーティを想定しているのですから、和服を着るのは時代錯誤だと明言するのも当然。
回答者はパーティに着るべき服を選べない消費者たちに苦言を呈しています。あるいは、続く文章を読んでいけというスタートの励ましなのかもしれません。
1960年代ですから≪叱ってから行動させる≫という教育が当然視されていたのでこうなるんでしょう。お前らバカだから俺の話を聞けというスタンスです。
他方で、和服しか知らない当時の一部の日本人たちを励ましているとも受け取れる文章も多く見受けられました。
かなり長く話が続きます。一つずつ見ていきましょう。

回答者の想定する年齢層

リード文

そこで、気にかかるパーティーの装いですが、今シーズン盛んな光ったマテリアルを上手に使って、若さのあふれた華やかな装いを、今日らしく着こなすことを考えてみましょう。光り輝やくマテリアルをゴージャスに使うのはあたりまえのことですが、それを若さと結びつけ、さり気なく無造作に着ることはなかなかむずかしいものです。

出典「婦人画報」1967年12月号21頁

リード文批評

質問者は30代か40代だと想像していましたが、回答者によるともっと若い人を想定しているようです。先の引用にゴーゴー(ブーツ)が出ていたことからも、10代後半から20代を想定していそう。
となると、回答者の回答は初めからかみ合っていないことになります。
ただし、私がゴーゴー・ブーツを20代までと限定している点が間違っているかもしれません。1970年頃からクレージュは中年女性向けにも商品を開発していったのですから、その転換期が1967年にあたるとすれば、回答者の回答も多少の意味はあるというものか…。

グリッターファッション

リード文

光ったきれ地にもさまざまな種類があります。重厚で優雅な絹の光沢や、エナメルやプラスティックのレザーのような光沢は、もう皆さま充分ごぞんじのはずです。新しい感覚のものとして目立つのは、ガラスやアルミによる宇宙時代的な光りや、シャンデリアのようなきらびやかさを備えた金糸や銀糸の使い方です。これらのすべてが<グリッターファッション>として、近代的な姿をみせているのが今年の特徴です。

出典「婦人画報」1967年12月号21頁

リード文批評

グリッター・ルック(glitter look)またはグリッター・ファッションとはラメなどの光る素材や玉虫調の光沢のある素材を使った衣装のことです。
回答者が光沢の構成要素に挙げているのは、絹とエナメルやプラスチックを採り入れたレザー。天然繊維でも化学製品でも光沢を表現すると回答者は理解しています。
なかでも宇宙時代(スペース・エイジ)らしい素材がガラスとアルミ、他方でシャンデリアを想起させる素材は金糸や銀糸と捉えています。私なんぞはラメフェチが強いのか、金糸でも銀糸でも宇宙時代に見えるんじゃないかと思いますが、回答者の区別ではそれら金銀糸はシャンデリア型だと。
最後の文章に「近代的な姿」と出てきます。
同時代を現代とはいわずに近代とさす言葉づかいは留意しておきたいです。1960年代は近代という言葉に理念を強く盛り込みたかったのかなと想像します。歴史の発展段階を日常的に意識していた時代だったのかもしれません。何の歴史も未来もない2010年代からみれば、ある意味うらやましい。

ブルーの花のドレス

「婦人画報」1967年12月号20頁

リード文

白の絹オーガンジーに、浮きあがった花柄を銀糸で縁どった繊細な感じのきれ地です。白サテンのアンダードレスの上に、細っそりとかさねて裾に白狐の毛皮を飾りました。クリスマス・パーティーなどにおすすめします。

出典「婦人画報」1967年12月号21頁

リード文批評

ドレスの裾以外はすべてシースルー。透け感が強く、かなりセクシーです。白サテンのアンダードレスが光沢をさらに増すんでしょう。
花柄が可愛いのでシースルーの大人らしさと中和されて、かなり萌えました。裾が毛皮なのでミニでも崩れにくく端正に保てます。

連続模様のドレス

「婦人画報」1967年12月号21頁

リード文

これも白い絹オーガンジーに、金糸で連続模様を浮き織りにしたきれ地です。細い長袖をつけたシンプルなドレスは、両脇につけた金色のボウの下で、スカートに深いスリットをつくり、中の金色のアンダースカートをのぞかせる仕かけになっています。この豪華さはお嬢さまよりも、むしろ奥さま方にお似合いになるのではないでしょうか。

出典「婦人画報」1967年12月号21頁

リード文批評

お嬢様より奥様向け。
袖はシースルー
モデルの手で見えにくいのですが、スカート部分に深いスリットを施しています。
スリットで目が脚に行くところを可愛い大きめのリボンでシャットアウト。男目線を遮る点が面白いと、男目線で感じました。
アンダースカートは金色とだけ書いていますがサテンでしょうか。自信がありません。

金や銀のもつ豪華な中にも暖かみのあるきらびやかさ

 リード文

ガラス玉やアルミ片をとめつけて、部分的な光りを効果的にみせたものも、パーティードレスにふさわしい試みですが、それよりもっと親しさのある光沢といえば、金や銀のもつ豪華な中にも暖かみのあるきらびやかさではないでしようか。ガラス玉やアルミは冷たい人工的な光りですし、およそいままでの日本の衣服には関係のないものでした。しかし、金や銀の底に沈んだような光りは、和服でもしばしば用いられたものですから、すでに着なれているはずです。ですから、絹を着るときの雰囲気と全く同じ感じで着られるのはこの金や銀を織りこんだマテリアルといえるでしょう。

出典「婦人画報」1967年12月号22頁

リード文批評

日本の衣服に馴染んできたのはガラス玉やアルミよりも金や銀の方とのことです。絹の和服または絹の和服地を使った洋服には、金糸や銀糸を織り込んだ生地を使うと似合います。
こういう有機的な説明はルリ・落合の文章かと想像させます。丁寧な解説ですね。

ひかえめな光りのきれ地

リード文

布地の表面全部を金色や銀色につくったものもありますが、いっそう親しみやすいのは、刺繡のように浮きあがらせた模様の輪郭を、金糸や銀糸で縁どったものや、全体に金粉や銀粉をふりかけたように織りこんだ、ひかえめな光りのきれ地でしょう。この程度の光沢なら、和服の金糸、銀糸の華やかさは平気でも、ドレスとなるとキラキラは気恥しいとか、不安がったりなさる方も、ごく自然な気分でお召しになれるものでしょう。

出典「婦人画報」1967年12月号22頁

リード文批評

先の引用では単に「金糸や銀糸を織り込んだ生地」を奨励していましたが、ここは一歩踏み込んで立体感のある刺繍を推奨しています。
これを使うと和服に多い控えめな光りになるのでドレスのキラキラも抑えられます。どうもリサイクルの発想が丁寧な印象。やはり落合ルリの文章でしょうか…。嫌味がありません。

年齢にこだわらず、たのしい装いを

リード文

布地がきらびやかであれば、着やすくてシンプルな服でも、とてもゴージャスな雰囲気が出せるものです。今年のパーティーには、ぜひこんなマテリアルで、年齢にこだわらず、たのしい装いをなさっていただきたいものです。

出典「婦人画報」1967年12月号22頁

リード文批評

生地が豪華になれば服の形態や形状がシンプルでもゴージャスな雰囲気が出ると筆者はみます。年齢にとらわれず楽しく生地選びと服への応用を実行してくれということですね。
この文章も節約とリサイクルにもとづいて、そのうえ、作ったり着たりする楽しみまで消費者にもたせようとしています。リード文では珍しく良質のものだと感じます。やはり落合ルリの文章か…。

そのアクセサリー要るの?

リード文

フォーマルウェアにとって大切なアクセサリーは宝石、とされてきましたが最近のドレスのデザインの傾向は、たとえフォーマルでも、宝石が絶対に必要ということではなくなりました。光ったマテリアルを使ったドレスには、ダイヤやエメラルドの冷たい輝きよりも、むしろ落ついたパールの光りがよく合うものですが、そのパールさえ、デザインによっては不必要な場合もあるくらいです。また、イミテーションの装身具を使うよりも、キラキラ光ったドレス全体が、宝石のような輝きで体をつつむ、という着こなしでよいのではないでしようか。それが現代の若いファッションから生まれたエレガンスです。

出典「婦人画報」1967年12月号23頁

リード文批評

アクセサリーについて述べた所。
このアイデアは素晴らしい。「現代の若いファッションから生まれたエレガンス」として、キラキラ光る生地を使ったドレス全体が宝石になるんだという見方が抜群。服を殺さず上手く活かして他人に見せましょうという趣旨です。
ですから、ダイヤモンドやエメラルドはもちろん、パールすら不要かもしれないという論理になります。圧巻です。ましてやイミテーションなんぞで無理すんな・頑張る割には映えないぞという趣旨に脱帽。
落合ルリの文章だろうと確信してきました。

手袋・バッグ・靴

リード文

手袋は、ドレスにあわせて、白、黒、ベージュのなかからえらび、バッグと靴は、ドレスの金、銀にあわせてえらびたいものです。

出典「婦人画報」1967年12月号23頁

リード文批評

ドレスをもとに手袋とバッグと靴の選ぶコツを書いています。
手袋の述部とバッグ・靴の述部にやや温度差があります。手袋の箇所ではドレスの要素が記されずドレスに合わせろというだけ。これに対し、バッグと靴の箇所はドレスの要素を記しています。
ドレスを土台に手袋は白色・黒色・ベージュ色のどれかから選ぶべきとアドバイス。ドレスに合わせてというのですが、ドレスのどの要素に合わせるのか詳細がありません。したがって、この部分の思想は手袋を目立たせないことだと考えられます。
バッグと靴はドレスの金色・銀色など光沢部分の色に合わせろというアドバイス。この効果について私は勉強不足なので上手く説明できません。
足元の靴はドレスの光沢に合わせると一体感を増すということでしょう。
ただ、バッグは手に持つか腕に掛けるかでしょうから、手袋と同じ項目として書くべき気がします…。靴にたいして腕や手にまとわる手袋とバッグをまとめて書かなかった理由があるはずですが、ギブアップ。

プリントのふくれ織のドレス

「婦人画報」1967年12月号23頁

リード文

シックな配色のモダンアートのようなプリントです。底ににぶく光る銀糸がエレガントな絹のふくれ織です。短い上衣の前は金色のブレードを止め具にしてあります。中の袖なしのドレスは、胸の切替から下をパネルにして、年配の方の体型もカバーするようにつくったものです。

出典「婦人画報」1967年12月号23頁

リード文批評

配色をモダンアートと関連づけて紹介しています。ふくれ織による凹部分に銀糸が鈍く光るのが記事のポイント。この写真からは分かりませんが中はノースリーブ(袖無し)のドレス。外側の長袖上衣と柄は同じで、いずれもミニドレス
この上衣をコートとジャケットのどちらと呼ぶのか、筆者の言葉づかいを知りたいところです。

プリントのふくれ織のドレス

「婦人画報」1967年12月号23頁

リード文

友禅模様のように美しいプリントのなかからキラキラと金糸の光りがみえるきれ地です。大きく刳った衿もとと、ハイウェストから流したギャザーの上に、幅広のベルベットリボンを結んだ、クラシックなムードの若い人のドレスです。

出典「婦人画報」1967年12月号23頁

リード文批評

先の作品は銀糸でした。こちらの作品は金糸。
胸ダーツを入れて上半身部分を少しスリムに。下半身部分はギャザーがあるのでゆったり目。ダーツとギャザーを併用したドレスはあまり見かけませんが、面白いアイデアです。
首と腰につけられたリボンが目立つ仕様です。「クラシックなムード」と記されていて、私は1920年代アメリカかと想像しましたがクラシックの意味する時点、自信はありません。

おわりに

今回紹介した記事の筆者がしばしば言及してきたのが「ふくれ織」。
これはルリ・落合が次の記事で推奨していたものです。やはり今回紹介した記事もまた彼女の書いたものではないかと、ほぼ確信しています。
同じ号の他の記事類に「ふくれ織」を使うのは見当たらないからです。
夜の集まりに着るコートとドレス:ルリ・落合デザイン
ここに紹介する2点の画像とリード文は「婦人画報」1967年12月号14頁・15頁に特集された「夜の集まりに着るコートとドレス」です。ルリ・落合が衣装デザインをしています。今回のルリ・落合のリード文が1967年に存在したことに驚嘆します。

他方、デザイナーの鈴木宏子の作品はこの文章とマッチしています。となると文章も鈴木宏子なのかもしれません…。こんがらがってきました。
見ていて一番ときめいたのは1作目です。男目線でごめんなさい。
1960年代ファッション
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この記事を書いた人

いろんなファッション歴史の本を読んで何も学べなかった残念なファッション歴史家。パンチのあるファッションの世界史をまとめようと思いながら早20年。2018年問題で仕事が激減したいま、どなたでもモチベーションや頑張るきっかけをください。

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