目でみる女性ファッション史:青木英夫・メイS青木
目でみる女性ファッション史:本書は1858年から1975年初頭までを扱った西洋ファッション史です。文字サイズが大きめなので読みやすく、白黒ですが写真が多いので楽しく読めます。
青木英夫・メイS青木『目でみる女性ファッション史』衣生活研究会、1975年
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本書の範囲と意図
本書が1858年をファッションの開始と考えたのはフレデリック・ワース(シャルル・フレデリック・ウォルト)がパリでオート・クチュールを始めた年だからです。それ以後のデザイナーと作品を中心に、同時代の資料(とくにファッション・プレートや雑誌など)を主に用い、社会的背景を眺めながら述べています。また、とある年に過去のファッションが登場した理由も追及するとあります。
本書の特徴
夫婦による共著かと思われます。青木英夫が文章、メイS・青木がファッションの時代別特徴、写真、図版を担当しました。
メイS・青木はフランク・ウィゲンス大学服飾科卒業(1950年9月)、その後シュナウド美術大学服飾デザイン研究科卒業。アメリカ各地でコレクションを数回行ったとありますから現場の人です。理想的ですね。私もたまに妻に裁縫を教えてもらいますが、どうも知識一辺倒になりがちです。
ファッション・プレートやファッション・ブックも使う
得意分野の分担をふまえて、本書の1つ目の特徴は写真だけでなくファッション・プレートやファッション・ブックも取り上げられていることです。といっても写真がダントツに多いのですが、たまにメイS・青木のイラストがあって、これが写真の模写やイメージ描画だったりするのですが分かりやすい。
叙述サイクルがかなり短い
ファッション史の本でこれほど叙述サイクルが短いものを初めて見ました。1項目あたり半年または1年です。
単純に計算しますと「ファッションの創始」から「甦ったシャネル」までの項目数が63項。本書の取り上げた年数は≪1975-1857=≫「118」年なので1項目あたり2年。といっても「オートクチュール初期の時代」はややサイクルが長いので、後半(現代)になればなるほど叙述サイクルは短く細かくなってきます。
戦後はディオールを中心に叙述
なんとファッション史では珍しくクリスチャン・ディオールを軸に戦後を述べているのが斬新でした。普通のファッション史では1940年代ディオールのエー・ライン(ニュー・ルック)から1950年代のバレンシアガ、1960年代のマリー・クワントおよびアンドレ・クレージュのミニスカートと来るので、ディオールはせいぜいワンポイントで終わる人物。
ところが本書では81頁から123頁までを「ディオールをめぐって」という大項目に使っています。各小項目でも≪ディオールはこう、他のデザイナー誰はこう≫といったように作品や背景が述べられます。
著者のディオールへのこだわりは何でしょうか。まずはニュー・ルックの影響から。
クリスチャン・ディオールがニュー・ルックを発表して以来、まさにパリのデザイナーはディオール一人にしぼられたの感があった。(同書86頁)
そしてエルザ・スキャパレリは16世紀調のデザインを発表し、ピエール・バルマンはスカートの膨らみを強調したブーファント・スーツを発表しました。これらがディオールの影響下にあると著者は見ているようです。
次にディオール他界の影響から。
クリスチャン・ディオールが死亡した時、世界の人々は流行の中心はフランスから失われるのではないかという心配がおきた。それはディオールの名声が高くなってきたことによるわけでである。(同書110頁)
一番慌てたのは当然フランスのデザイナーたちでした。オート・クチュール組合は共同で1958年春にサック・ドレスを発表しました。このドレスを10代から70代までの年齢層が着たともいわれますが、マタニティ・ドレスにしか見えないために人気が無かった(アメリカでは大人気)とも記されています(同書110頁)。
本書の評価
ディオールを軸に書いている部分が多いので驚きました。著者も述べるようにディオールの作品に斬新さは有りませんが、影響力と地位が重要だったことを改めて知りました。
著者は社会背景も描くと言っていますが、その背景叙述でお茶を濁さないのが本書の良い点。メイSとのタッグが絶妙で、裁縫やディテールについて突っ込んだ分析を年単位で行なっているので、服を自作する方にも楽しめます。たとえば次のよう。
(1959年は)スーツの上着はルーズフィットが多い。ラグラン袖やキモノ袖であらわされたり、また大きな衿や広い衿明で示されている。スカートはいわばノーマルなスカート丈といってよいものである。(同書111頁)
もちろん生地についても詳細です。たとえば生地柄や流行色について次のように叙述されています。
(1971年は)流行色は無地扱いが多く、黒、スカーレット、白、ブルー系をはじめ、ブラウン、あざやかなイエロー、グリーン・ピーチなど先シーズンよりもパンチのきいた美しい色調がめだった。ワイン系は少なくなり、ラベンダーに移った。柄はツイードが主で、とくにコンピューター柄といわれるごく細かな幾何学柄、プリント模様も幾何学模様が中心となっている。(同書162頁)
ただ、写真が全て白黒なのでその点だけが残念…。
青木英夫・メイS青木『目でみる女性ファッション史』衣生活研究会、1975年
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目次
序にかえて
I. ファッションの創始
- ファッションという言葉
- ファッションの歴史はどこを出発点としたらよいか
II. オートクチュール初期の時代
- ワースとクリノリーヌ
- トーノレニュールについて
- アール・ヌーボーとSカーブ・ライン
- ブルーマー夫人とブルーマーズ
- 商売人ジャック・ドウゼ
- 隠すということ、世紀末のウィーン
- ベル・エポック時代とポール・ポアレ
- 職人気質のデザイナー、マドレーヌ・ヴィオネ
- フラッパーとココ・シャネル
- ギャルソンヌ・スタイル
- アメリカのデザイナーたち
- ミリタリー・ルック
III. ディオールをめぐって
- クリスチャン・ディオールとニュー・ルック
- ジグ・ザグ・ラインとウィング・ルック
- トロンプ・ルイユからミッド・セントリー
- オーバル・ラインからミューゲ・ラインまで
- アルファベット・ラインについて
- チュニック・スタイルなど
- ディオールの最後の作品
- サック・ドレスについて
- 軽い生地、陽気な色
- 幻想的な東洋調の流行
- そよ風の感じを[1931年代調]
- ソフト・ムードの流行
Ⅳ. ヤングの時代
- 現代の妖精
- 初期1930年代調 – 1964年
- ベル・エポック調モード
- ミニスカートの流行
- リトル・ガール・ルック
- ジプシー・ルックの流行
- ニューAライン – 1967年
- ネオ・ロマンティシズムの流行
- ミニ、スカートの後にきたもの
- シースルーの流行
- アール・デコ調の流行
- ミディ・スカートやマキシスカートの登場
- ヤング化粧の流行
V. 大人の時代
- 女性美の再現
- スポーティブ・クラシックとエレガンス
- 1950年代調
- 1920年代調
- 新しいAライン
- ロングスカートの再現
- 1920年代から50年代ルック
- ノスタルジック・ヘアの流行
- クラシック調の流行
- ビッグ・ファッションの流行
- ネオ・スポーティ・ファッション
- コットン・ファッションの流行
- オフ・ボディを着る
- 返り咲いた女らしさ
- バンク・ファッションの登場
- セクシーなシェープ・ファッションの流行
- 1950年代調のファッション
- リアル・クローズ
- フォークロアの流行
- アクティブ・スポーツ・ライン
- 大人の落ちついた味わい 軽快さのコンビネーション
- ストレートなシルエットにシックなオーバー・レングス
- 女らしさへの回帰
- 甦ったシャネル
- あとがき
- ファッションの歴史年表
- 参考文献
- 索引
青木英夫・メイS青木『目でみる女性ファッション史』衣生活研究会、1975年
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