アメリカ映画女優史
アメリカ映画女優史:著者の南部圭之助は淀川長治の師匠。アメリカ映画が日本で上映され始めた1913年頃から約半世紀が過ぎて出版されました。その間に何世代かの映画ファンが日本で育ち、それぞれの時代のファンに共感を呼ぼうとするのが本書の意図です。
関東大震災、アジア太平洋戦争などで、映画ファンにはブロマイドや雑誌類を焼失した人も多く、懐古的に(ノスタルジックに)映画を振り返ってもらうという暖かさのこもった本です。
本書の内容
口絵が前半をなして、なんと約120ページも割かれて様々な女優の写真集となっています。後半約100ページが時代別・テーマ別に分かれた映画史・女優史です。
著者が自分でいうように、ファンから物書きへ成り上がったタイプなので詳細な分析はありませんが、その分、時代の躍動を感じながら軽快に読めます。その割に映画制作の裏話や映画会社の経営にも言及していて、映画産業史としても楽しめます。
出版年からして、今から知ることの難しいアメリカ映画最初の半世紀を詳しく知ることができます。著者の「あとがき」によると
とくに無声時代は、他に本や記録がほとんどないので、詳しく書いた(225頁)
と記しています。しかも、本書には映画作品の解説はほとんどなく、女優業の浮沈や人気女優の変遷が同時代の文化史に上手く溶け込ませているので、やはり軽快に読めます。
著者は1904年に生まれ、27年には「映画世界」の編集長を始め、30年に慶応大学を中退してパラマウント日本史社に入社(松竹パラマウント宣伝部長)しています。映画ファンが高じて20代に映画業界に猛進したわけです。
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本書の特徴:ディートリッヒとガルボ
パラマウントといえばマレーネ・ディートリヒが所属していたことで有名です。彼女と同時代の映画界を生きた女優にグレタ・ガルボがよく並べられますが(たとえば「グレタ・ガルボ/マレーネ・ディートリヒ」)、本書は無声映画の著名な輸入女優としてガルボを取り上げ(150~155頁)、発声映画(有声映画)の代表的な輸入女優としてディートリッヒを取り上げていて(179~181頁)、独特な観点が見えてきます。
ガルボの方が割いているページが多いです(ガルボの箇所には他の女優も多く記されているので叙述量に大差ありませんが)。特に、著者の入社したパラマウントはガルボの所属していたMGMとハリウッドで競い合っていたのに、ややガルボに関する文章が多いのと、「口絵・歴代女優集」がガルボから始まるという点にユーモアを感じました。
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目次
- 口絵・歴代女優集(122頁まで)
- 1910年・映画会社の抗争からスター第一号が生れる
- スペクタル映画と誇大宣伝の始まり
- 連続映画流行と猛女優の発生
- 「名金」のヒットと映画ファンの発生
- パール・ホワイトとパテー・シリアル
- ブルーバード映画時代
- ブルバード女優群
- ハリウッドの女王、メリー・ピックフォードのギャラの歴史
- 日本の銀幕に最初に現れた2人のスター
- ブルーバード映画はアメリカではたいしたことはなかった
- 2人の大女優、ポーリン・フレデリックとアラ・ナジモワ
- リリアン・ギッシュの不運な女優生活と芸術の達成
- ノーマ・タルマッジとその他の姉妹スター
- 毒婦女優(ヴァムプ)の発生と流行
- 喜劇女優=アメリカ型のコメディエンヌ
- 1ケ月に60本封切られた大正11年外国映画の氾濫とベスト・テンのはじまり
- アメリカの映画女優は昔の方が美人であった
- 奥様型女優の群列
- 4人の娘役スター
- 1920年前後のその他のスター群
- パラマウントの日本展開とその初期の女優群
- グロリア・スウォンスンの豪快な生活
- 3人の娘役、コリーン・ムーアの人気
- 短編喜劇出身のスターたち
- 輸入女優の興亡、グレタ・ガルボの世界的人気
- 第2期の奥様女優、優雅なフローレンス・ヴイドア
- 美人女優と時代劇の女主人
- ワムパス・スターというニュー・フェイス登用機関
- ジァネット・ゲイナーの幸福と「サンライズ」
- パラマウントの7人の女優たち
- 無声映画、銀幕を閉じて発声映画へ
- トーキー出現の混乱と展開
- トーキーを乗りこえる
- 舞台女優の進出
- トーキーがもたらした変り種の大物怪女優
- ミュージカルの世界から
- 1933年の様相
- パラマウントのスター群
- 過ぎし日の若いファンの想い出のために
- 永遠のグラマー、マレーネ・ディートリヒと輸入女優の系列
- ジョーン・クロフォードの激闘とマーナ・ロイの完成
- 大成した二人の無声終期のワムパス・スター
- グラマーとキァロル・ロムバードの知性
- セクシー妖婦女優ジーン・ハーロウの悲劇
- 傍役の女優たち
- 准スター・クラスの若手スター
- ハリウッドのトップ・レイデイになったアイリン・ダン
- 踊りと歌の世界から
- ベティ・デイヴィスの世界
- キァサリン・ヘプバーンの後半の展開
- 輸入女優。独仏スターの敗退
- 1936年以後活発に活躍した中堅スター
- シャーリー・テムプルとディアナ・ダービン
- 国際市場向きスターと国内向けスター
- イギリス系女優の進出
- 1930年代を終る
- 終戦直後のアメリカ映画
- イングリッド・バーグマンの悲劇
- 戦中派女優の成育
- MGMのミュージカル女優たち
- 20世紀・フォックスの戦中派若手女優
- ワーナーの魅力ある女優群
- 演技派の活躍
- ジョン・フォード映画の女主人たち
- 1950年代と大型映画。日本が有力市場となる
- 妖精オードリー・ヘプバーンと三人の大スター
- 演技派という世界
- 一線級のスター群
- 歌手と踊り手の世界
- 美人とセクシー
- 輸入女優の出入り
- 新人女優・スターと後の成否
- あとがき
- 作品・原名と発売年度索引
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南部圭之助『アメリカ映画女優史』楽天社、1967年
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