ストッキングとは爪先から大腿部分を密着して覆う衣料品のことで、主に編まれた靴下をさします。
ストッキングは錯綜したファッション用語の一つです。
アングロサクソン語の木製編針(ストック stock =木の枝)を用いていたことが語源です。日本語で長靴下、英語でホース(hose)またはホウジアリィ(hosiery)ともいいます。
この記事ではストッキングの意味や歴史をさぐりながら、タイツとの違いを説明します。
ストッキングとタイツの違い
だいたい、肌の色が透ける程度に薄手のものをストッキングと呼び、肌が透けないのはタイツといいます。
厳密には次のような区別があります。
タイツとストッキングには2種類の分け方があります。
- 編機の針数400本ほどを用いるとパンティストッキングで、360本以下の粗い針数に設定するとタイツとする分け方
- 40デニール以上の太い糸を使うとタイツとする分け方
ただし、数値は人や企業によって違いがあります。
一例に1960年代の広告をご紹介します。
業者もファッションライターも分けていなかったストッキングとタイツの違い
足元のおしゃれが世界的に流行だとわかります。
この流行はミニスカートの影響にほかなりませんが、この足元のおしゃれの種類をリード文で追ってみましょう。
- いままでのストッキング
- 模様のある長靴下
- 膝下までのハイソックス
- 暖かいタイツ
ストッキング、靴下、ソックス、タイツの4種類が出ています。
1枚目の写真では、右上と右下のアイテムをタイツといっていて、左下のグレーのアイテムは(ウーリー)ストッキングといっています。左上はタータンチェック、ダイヤ模様など柄に言及しただけ。
2枚目の写真では、右上がハイソックス、右下と左がカラーストッキング。
このコーナーの名前が「カラーストッキングとタイツをたのしむ」で、今の感覚で厚みからいえばすべてタイツに区分されるものです。
ストッキングの品質
ストッキングの品質はゲージとデニール数で表示されます。
ゲージ
日本では10デニール66ゲージのものが最高級品とされ、多くはウェディング・コスチュームなどのフォーマル・ウェアに使われます。
一般の外出用や通勤・通学用には15デニール51ゲージまたは20デニール51ゲージなどの丈夫なものが使われます。
デニール
デニールとは製造するために使われた糸の重量のことです。
ストッキングをデニールで比較することは、どれほどの薄さかなどストッキングの選び方において大切になります。
デニール数が大きくなれば丈夫なタイツになり、保温性が高まります。ストッキング類・タイツ類ではデニールが8から200以上に至るまで分かれています。
ストッキングの意味
19世紀までのストッキングは膝上のものをさし、膝下までの靴下はソックスと大別できました。
20世紀に入ると段階的にストッキングの改良や開発が行なわれていったため複雑になっていきます。
膝下でも薄地ならショート・ストッキングとよんだり、薄地でも編み上げのストッキングはむしろ網タイツとよんだり…。
一応、30デニールか40デニール未満のものをストッキング、30デニールか40デニール以上のものをタイツと区分します。
ただし、デニール数は業者によって異なります。
ストッキングの歴史
ストッキングの歴史は、編物製の歴史と織物製の歴史に大別します。
中世
中世ヨーロッパでは男性が使っていて、16世紀頃から編まれた靴下をストッキングと呼ぶようになりました。
それ以前のストッキングといえば織物製でした。17世紀に英国の女王エリザベス1世が絹製の編ストッキングを穿いてから、女性も使うようになりました。
16世紀頃から靴下をストッキングと呼んだことには技術的な根拠があります。1589年にウリアム・リーのメリヤス編機が開発されました。
そして17世紀にかけてコットン製(綿製)やウール製(羊毛製)のストッキングがヨーロッパで大量生産されるようになりました。
1920年代・1930年代 : 下着から外衣への転換と素材の変化
20世紀に入ると、繊維面では1920年代に肌色のシルク製(絹製)ストッキングや人絹製ストッキングが流行します。
そして、1930年代末に薄い透明感のあるナイロン製ストッキングが開発され、今にいたります。
この前後、世界の民族衣装でもっとも有名な旗袍(チャイナドレス)はシルクストッキングとナイロンストッキングを導入して、華麗に変化していきました。チャイナドレス専門サイト「旗袍的新故事」の「民国旗袍の女性美基準をきめたストッキング」をご覧ください。
スカート丈上昇とムダ毛処理
ガブリエル・シャネルのデザインしたスーツやドレスをはじめ、1925年頃にはスカート丈は膝頭を隠す程度にまで上昇しました。
脚の露出とストッキングの露出によって、もはやストッキングは下着ではなく外衣の一つになりました。
その結果、スキンケアの必要性が生じて、ロウや軽石を使って脚のムダ毛処理が行なわれるようになります。
外衣となったストッキングはきめ細かい製品が好まれ、色なベージュかグレーに偏りました。ガーター機能の付いたコルセットの代わりにアパレル業者はガーター・ベルトを作り始めました。
ナイロン・ストッキングの登場
素材から見ますと綿や羊毛のストッキングに加え絹のストッキング(シルク・ストッキング)が1920年代に流行します。
1930年代末のナイロン・ストッキングの登場によってストッキングはナイロン製をはじめとする化学繊維製が急増しました。
絹製ストッキングは高価でした。
外見上は絹製と区別のつかないナイロン製ストッキングは安く、これの開発・販売によって一気にストッキングを穿く女性が増えました。
戦時のストッキング
トリコットやフリー・ファッションド(後述)のストッキングは戦時中に欠乏したので、欧米の女性たちは(ナイロン製の)ストッキングを穿いていると見せかけるために色々と工夫をしました。
たとえば素足の上にベージュの絵の具やコーヒー、ココアなどのパウダーを塗ったり、ストッキングの縫目に似せて脚の後側に茶色い線を引いたりしました。
とくに冬場は素足が忌避されたので線引は女性の身だしなみになりました。
間もなく脚の化粧品が開発されましたが、当初は衣服が汚れたり雨中を走れなかったりしたので、徐々に新しいバージョンが開発されていきました。
マックス・ファクターやエリザベス・アーデンなどの企業は水と混じった液体クリームまたはパウダーを販売し、肌の色調を豊富にするために、いくつかの色の化粧品を提供していきました。
これらのことは「Introduction to Back Seam Stockings, Stay Ups and More.」や「Cosmetics and Skin: Cosmetic Stockings」に写真入りで詳しく書かれています。
脚の後側に茶色い線を引くだけでなく、見せかけの縫目を作るミシンもありました。
ただし、これは物資不足から解放された戦後の機種でしょう。戦時にそんな余裕はありません。
1960年代 : 形態の変化と外観の変化
1960年代にストッキングは形態の点と外観の点で変化をしました。
- 形態面ではパンティストッキングが登場しました。
- 外観面では新しくシームレス・ストッキングが登場しました。
次の記事は「ヴォーグ」イギリス版1969年9月号に掲載されたもので、ファッション・デザイナーのマリー・クワントがデザインしたとされるものです。
マリー・クワントによる色んな色のヒールとタイツの配列The Most Remarkable Mary Quant Designs From The Vogue Archives | British Vogue | British Vogue
と記されています。
GUY BOURDINの写真はインパクトありますね。
「色んな色」がヒールにだけかかりますので、ヒールとタイツの組み合わせをクワントが考えたということでしょう。
この写真のフットウェアは透け感からしてストッキングだと思いますが、タイツと書かれています。
ファッション雑誌だからええ加減ともいえますが、(冒頭に先述のとおり)あまり厳密に区別されていなかった点がわかります。
ファッション評論家の林邦雄は1960年代の女性靴下の変遷を次のように羅列しています。
一気にいろいろと変化したことが分かります。
フルファッションからトリコット、シームレス、カラー・ストッキング、カラー・タイツ、柄ものストッキング、ハイ・ソックス、さらにはストッキング・ブーツ、パンティストッキングと、靴下の変遷は日本女性の脚線美が進むのと比例して発展してきた。林邦雄『ファッションの現代史』冬樹社、1969年、314頁
以下では目まぐるしい変化をまとめて、一大転換点となったパンティストッキング(いわゆるパンスト)に注目して簡単にお話します。
ガーター・ストッキングからパンティストッキングへ
形態面を見ましょう。
1960年頃にパンティストッキングが開発されました。
それまではストッキングは大腿辺りまでの長さだったため、ガーター(またはガーター・ベルト)と呼ばれる靴下留めと併用していました。
フル・ファッションド・ストッキングからパンティストッキングへ
1960年代になると、数百年間も下火になっていた織物のストッキングも作られました。
1960年代前半に後に縫目の無いシームレス・ストッキングが開発されました。
それ以来、今までのストッキングはフル・ファッションド・ストッキングまたはフリー・ファッションド・ストッキングと呼ばれるようになります。簡単にはフルファッションストッキング。
フルファッションストッキングの時代には、それ相応のミシンがありました。また、後縫目のように見せかけるミシンまでありました。詳細はこちらをご覧ください。
話は戻り、フル・ファッションドは1960年代半ばまで一般的でしたが、シームレス・ストッキングの開発以後、シームレス、フル・ファッションド、トリコットは競争関係に入りました。
シームレスの圧勝に終わりました。
1969年頃のミニスカートの流行によって、ショーツ(パンティ)部分と結合されたシームレスのパンティストッキングが普及し、1980年代前半にゴム状弾性糸スパンデックスを混入したサポート風が加味され、今にいたります。
1960年代はナイロン以外にもパピロン、ピルサンなどの新素材も登場しました。
本来のストッキング=セパレート・ストッキング
本来のストッキングは、後中央に縫目があり、脚部は左右に分かれていました。
シームレス・ストッキングがセンターシムレス・ストッキングやセンターシムレス・パンティストッキングというように、センターという文字をつけて呼ばれるのはそのためです。
縫目のある本来のストッキングは、シームレス・ストッキングの登場によって、シーム・ストッキング(フル・ファッションド・ストッキング)と呼ばれたり、パンティストッキングの登場によってセパレート・ストッキングと呼ばれたりするようになりました。
セパレート・ストッキングとは左右2本に分かれたストッキング。
パンティストッキングやタイツのように1つに繋がったワンピース型のものと対比した言葉です。長いストッキングだけでなく膝下までのショート・ストッキングも含みます。
ストッキングの種類
次に、いくつかの基準で数多いストッキング名を区分していきます。
縫目・縫製による区分、編み方による区分、長さによる区分、装飾による区分、その他(サポート・ストッキング)の順で説明していきます。
ストッキングは他のファッション用語と同じで、同一品目でも区分の基準が変われば呼称が変わるため、多くのストッキングが次に列挙した区分を横断すると考えて下さい。
昨今、最も普及しているのは「縫目・縫製による区分」に属するパンティストッキングですが、これが必ずしもその区分だけに属するとは限りません。
縫目・縫製による区分
- トリコット・ストッキング(縫目の有るストッキング)
- フリー・ファッションド・ストッキング(縫目 の有るストッキング)
- シームレス・ストッキング(縫目の無いストッキング)
に大別されます。
トリコット・ストッキング:Tricot Stockings
経編みのトリコット生地を裁断して縫合したストッキング。
次のフル・ファッションド・ストッキングよりも緻密な組織になります。
1930年代にはナイロンのトリコット・ハーフ生地を裁縫し、爪先・踵・ソール部とウェルト部を補強のために2~3枚重ねていましたが、1960年代からは編成過程で補強部分を二重編みにして、これを裁断縫製する方式が普及しました。
これをとくに、フル・ファッションド・トリコット・ストッキングといいます。
シームレス・ストッキングが一般的になった20世紀第4四半世紀にはフル・ファッションはごく少数となり、以後はセクシー・ランジェリーの一環に使われるようになりました。
フリー・ファッションド・ストッキング:fully-fashioned stockings
成型編みによって脚部の太さに応じて編目を増減しながら平らに成形し、後ろ中央で縫い合わせたストッキング。
シーム・ストッキング、フル・ファッション・ストッキングなどとも言います。
着崩れたり、糸の一端が切れるとどんどん解けたりする欠点があります。
後ろ中央の縫目(バック・シーム)にファッション・マークという丸い目減らし跡がつきます。
フル・ファッションとは≪完全に成形する≫の意味で、ストッキングの中では最も脚部にフィットするものです。しかし、トリコット・ストッキング同様、シームレス・ストッキングが一般的になってからはセクシー・ランジェリーの一環に使われるようになりました。
フル・ファッションが一般的だった時代には安物のストッキングに見せかけの縫目(モック・シーム)や見せかけのファッション・マーク(モック・ファッション・マーク)をわざわざ縫い付けた詐欺商品がたくさん製造販売されました。
バック・シームは脚後の中央に線が入っているので、脚が細く見える効果がありました。ただ、ズレを気にするというデメリットも付いていましたが…。
パンティストッキング:panty stockings
ストッキングとパンティ部分の繋がったストッキング。
タイツより薄手で、パンティ・ホーズ、パンストとも呼びます。アパレル業界ではPS。
タイツは昔から舞台衣装や体操着に使われていましたが、ナイロン製の薄く肌の透けるストッキングは1963年に登場したに過ぎません。
1960年代のミニスカートの流行とともに、従来の大腿部までのストッキングからパンティストッキングへ代わっていきました。
定着した理由には、ガータが不要で穿くのに便利、機能的でスマートに見える、などが挙げられます。
肌に限りなく近い、穿いているのか分かりにくい繊細なパンティストッキングはとくに66ゲージで作られたといわれます。
色は一般的に肌色から茶系等が多いのですが、1960年代には既に黒・紺などの暗目の色から赤や黄などの派手目の色まで多種多様になっていました。
パンティストッキングのうち、股上を浅くして、補強糸の編み込まれている脚部をできるだけ少なくしたものは特にビキニ・タイプ・パンティストッキングといいます。
これを穿くとヒップ・ハンガー・スタイルやヘソ出しルックのときにウェストからバンティ・ストッキングが見える心配がありません。
また、ミニスカートやホット・パンツのときにも脚の切替部分が見えません。
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