ヴァルター・ベンヤミン Walter Benjamin は『パサージュ論』の中で、19世紀パリ女性が自転車に乗る姿を繰り返し述べています。
前々回「ベンヤミンのモード:初期形態からの変態」、前回「ベンヤミンのモード:脚の隠蔽と露出」に続き、サイクリングが一つのキーワードです。
このページではシャルル・ヴェルニエ(Charles Vernier)という画家の二つの絵をめぐって、ヴァルター・ベンヤミンのいう《サイクリング時の裾のまくれ》について当時の絵とともに確認します。
テキストは以下です。
シャルル・ヴェルニエの二つの猥雑な絵は対をなしています。「自転車に乗っての結婚式」の行きと帰りを表している。自転車は裾のまくれを表現するうえで、思いもよらない可能性を開いた。」[B1, a3](ヴァルター・ベンヤミン『パサージュ論』〔2003〕122頁)
ベンヤミンの取り上げるサイクリング絵画
女性が自転車に乗ったヴェルニエの作品は3つ確認されます。
それらがいずれも、サイクリングと愛を密接に関連づけて描いている点を指摘した興味深いブログ記事があります。
「Vélo – VTT avec Claude et Marie-Ange: LES VÉLOS DE CHARLES VERNIER」自転車好きな初老夫婦のブログです。その3つの絵の内、ヴァルター・ベンヤミンがいう、「自転車に乗っての結婚式」(Une noce en vélocipèdes)と題された絵は二つです。
2枚の絵で一番右の女性が新婦と思われます。
ヴェールの有無から、1枚目が「行き」、2枚目が「帰り」でしょう。
ヴァルター・ベンヤミンのいう「裾のまくれ」は、いずれの絵でも左側の女性を指していると思われます。
とくに2枚目の転倒しかけている女性のスカートの裾を指すでしょう。
裾がまくれる原因には、風、乗馬・サイクリングなどが考えられます。風は偶然性の高い上に、徒歩の場合、当時の女性たちはサイクリング時ほど丈の短いスカートは穿いていなかったでしょう。
したがって、当時、裾がまくれるきっかけとして乗馬やサイクリングが注目されたというのは、面白い指摘です。自転車の発明後、サイクリングの流行と定着によって、男性の視線がスカートの裾に集中するようになったわけです。
ベンヤミンの見たサイクリング
このように見てくると、ヴァルター・ベンヤミンが述べないもう一つのサイクリング服装はどういう位置なのか想像します。
ニッカーズ(ブルーマーズ)もまた、ズボンという形ではありますが、女性の尻から下半身へと男性の視線が移動するきっかけになったと考えられます。
女性美基準の一つに脚が加わるという転換が1880年代から90年代にかけて形成されたとみなせます。自転車(か馬)にでも乗ってもらわないと、女性の脚・足は拝めないといったところでしょうか。
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