アパレル apparel:言葉の解説と辞典の誤解

批判と理論
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アパレル(apparel)は英語の古語で、衣服や衣類を意味し、紳士服、婦人服、子供服の総称です。

広義では靴やアクセサリーを含みます。

アメリカでは衣料品の統計用語として公式に採用されている用語です。フランス語では「habillement」が近い意味です。

類義語にガーメント(garment)、クローズ(clothes)、クローシング(clothing,)、ドレス(dress)など。

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アパレル産業での使い方

アパレル産業を略してアパレルと呼ぶ場合もあります。

アパレル・メーカーをさす場合、よく業界では「川中」といいますが、これは総称としてのアパレル産業の意味で、「第二次製品段階」のことを意味しています。

これに対し「川上」は糸や生地の製造・提供段階、逆に「川下」は小売、とくに最終小売 りの段階を指します。

他方、製造だけに絞って紡績、織物、裁縫の3工程を念頭に置けばアパレル産業は川下になります。

アパレル・ウールなどと繊維を付けて呼ばれる場合は、概ね貿易上(関税)の関係からです。この場合のウールにはカーペットなどの非衣料品を除きます。

アパレル・メーカー

アパレル産業を担う企業のうち、自社生産(自家生産)を行なう者をアパレル・メーカーとよびます。

アパレル生産者またはアパレル製造業のことです。

自社生産は自ら企画する場合でも受託生産する場合でもアパレル・メーカーに変わりありません。

アパレル・デザイナー

アパレル・メーカーに雇用されて衣服のデザインを行なう人たちをアパレル・デザイナーといいます。

ファッション・デザイナーと同じことですが、後者の方が自社勤務などの独立色が強い印象があります。

アパレル・コンピュータ・システム

20世紀後半から衣料品生産の機械化が進み、アパレル・メーカーの縫製準備工程を自動化するコンピュータ・システムが導入されることが多く、これはアパレル・コンピュータ・システムといいます。

パターン・メイキング(型紙製作)、グレーディング(サイズ調整)、マーキング(生地への型紙配置)などが機械化されています。

詳細は「関連リンク」にある「中日本アパレルシステムサイエンス」のサイトをご参照ください。

語義の詳細 : アパレルとは既製服か?

アパレルはアウト・ウェアとしての広義のドレスや、アンダー・ウェアー(インナー・ウェア、下着)も含みます。

アパレル・メーカーのように業界全体をさす場合も、ブランドという晴れやかな場面だけでなく、私たちの日常まで幅広い意味をもちます。

冒頭でアパレルは英語の古語と書きました。

もともと、アパレルは僧侶の着る縁に刺繍をした衣服のことでした(井上〔1965〕30頁)。つまり、盛装と関わるものでした。

19世紀・20世紀に世界中で衣料品が商品化されていくにつれアパレルは商品化された衣服の意味をもちはじめます。

20世紀後半に注文服よりも既製服が主流となっていった結果、今では既製服のニュアンスを強めています。

今ではアパレルは溢れる衣料品という印象をもってしまいます。

しかし、既製服の意味をもたせるのは間違っています。

よく辞典では「既製服」を強調されていますが、アパレル以外でもガーメント(garment)、クローズ(clothes)、クローシング(clothing,)、ドレス(dress)の言葉すべてに既製服と注文服の意味が含まれるので、明らかな誤解です。

このような誤解は、1990年代以降に刊行された辞書によく見られます。

注文服>既製服という戦後の日本を貫通してきた根拠なき偏見が反映されています。

注文生産をするテイラーやドレス・メーカーは全く既製服を扱わなかったのでしょうか?

日本の場合、19世紀末には既にカフスやカラーは大量に輸入され、スーツの注文服に使われていました。

アパレルとは現物衣服でOK

アパレルは、たまに服装の意味で装いのニュアンスを含むこともあります。

1950年代の日本では欧米ファッションが一挙に流入したこともあり、ファッション(fashion)やモード(mode)の代名詞を務めたこともあります。

田中千代〔1969〕はアパレルを「ただの衣服というのではなく、衣服などが着られたその外装を強く意味する」と記しています(同書17頁)。

今では外装や服装の意味はなくなり、どちらかというと衣服自体を指すので、当時の雰囲気がわかります。

同書の解説は鋭く、「流行と服装」を英語ではファッション・アンド・アパレル(fashion and apparel)と表現される点を指摘し、「fashion and dress」や「fashion and clothes」とはいわないことを指摘しています。

ただし、今では「fashion and clothes」や「fashion and clothing」という言葉は一般的になっているので「clothes」「clothing」「garment」と同じくアパレルは物としての衣服をさすというのが無難でしょう。

「流行と服装」を英語で fashion and apparel と表現するという発想が少しちぐはぐで、むしろ戦後の日本で「fashion and apparel」を「流行と服装」と訳したのだと考えるべきです。

「流行と衣服」(fashion and apparel)があり、流行ではない過去の衣服はコスチューム・プレイとして機能してきたと考えればすっきりします。

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この記事を書いた人

いろんなファッション歴史の本を読んで何も学べなかった残念なファッション歴史家。パンチのあるファッションの世界史をまとめようと思いながら早20年。2018年問題で仕事が激減したいま、どなたでもモチベーションや頑張るきっかけをください。

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