筆者の綿Tシャツの誕生に関わった人々と政治と市場経済の物語、グローバル化の物語です。
一般書なので読みやすいですが、索引は欲しかった所。
著者について
著者のピエトラ・リボリ教授はジョージタウン大学の国際経済学者で、そこの1人の女子学生の演説に感銘を受けました。
学生は「Tシャツを作っているのは、水も食べ物も与えられず、ミシンにつながれている子供たち。週90時間も働いて、12人が1部屋で暮らしている子供たちなのです」と述べていました。
彼女はそれをどこで知ったのかを確かめるために、筆者は1枚6ドルの安Tシャツの一生を追い始めます。その追求が世界を駆け巡る本になったわけです。
綿は天然繊維で最も人間を熱狂させたもので、その栽培・入手には様々な経緯がありました。
目次
〔第1部〕キング・コットン―200年にわたる米国綿産業の覇権
- 第1章 テキサス州ラボック、ラインシュ綿農園
- 第2章 米国綿の歴史―勝利の鍵は労働市場の回避
- 第3章 ラインシュ農園ふたたび―「怖いのは補助金だけじゃない」
〔第2部〕メイド・イン・チャイナ
- 第4章 綿、中国へ上陸
- 第5章 底辺へ向かう長い競争
- 第6章 女工今昔物語―農場から搾取工場へ、そして…
〔第3部〕もう一つの国境問題―アメリカに帰るわたしのTシャツ
- 第7章 怒声の合唱―政治が貿易を支配する理由
- 第8章 保護貿易政策の意外な結末
- 第9章 40年の暫定的保護の終焉
〔第4部〕本物の市場原理―ついに自由貿易に向かうわたしのTシャツ
- 第10章 中古Tシャツの行方―日本、タンザニア、そしてボロ切れ工場
- 第11章 零細企業と東アフリカとアメリカンTシャツ
内容
ここで明らかにされるのは、縫製工場で働く児童労働の過酷さを始め、米国の綿産業保護目的の助成金がアフリカ最貧国のGDPを上回っていること、米国綿をめぐる権益がテロ組織に対抗するための重要な外交カードとして使われたこと等です。
18世紀イギリスの産業革命から2005年のWTO閣僚会議まで、約2世紀にわたる政治と労働と市場の葛藤も交えられています。
本書は経済学理論から距離を置くような立場をしばしば述べますが、
- 世界の綿生産量(地域別・年別)12頁
- 世界の衣料品輸出に占める中国のシェア(98頁)
- 米国繊維産業の雇用と生産性(1990-2003年)205頁
などの鳥瞰的な統計データをしっかり押さえており、他方で本文に原綿・綿糸・綿布・綿製品の流れごとに各生産諸地域の実態調査にも踏み込んでいます。
普通、経済学者はどちらかに偏りがちなのですが。
アパレル産業は中国を悪とする風潮が20世紀末から続いていますが、原綿生産から綿糸・綿織物生産にいたるまで、悪は中国のみならず世界に蔓延していることが本書で分かります。
そして生産者だけでなく全てを統括する企業や政治、そして消費者までもが脱出できない経済状況に置かれていることも考えさせらます。
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