ウィリアム・A・ロッシ「エロチックな足 足と靴の文化誌」は、足と靴のもつエロティック(性的)な側面をいろんな逸話で満たした本です。
数々の性欲を刺激する特徴を作りだした器官として足を捉え、靴を人間に奉仕する以上のものとして捉えている点がとても斬新です。
原題が「The Sex Life of the Foot and Shoe」からも想像できるように、セックス・アピールをするのは女性の足と靴だと明言しています。
その点、訳者後記に「ロッシの諸論はフロイト派の汎性欲説に拠っているため、一切をリビドーに還元し、異性をたんなる性的対象としてしか認めない傾向がみられ」(379頁)ます。
概要
古今東西の資料から次節を実証しようとする踏査力には凄いものがあります。
図版は少なく全て白黒ですが、かなり厳選されたものが挙げられているので、本文を読む時に助けになりますし、図版の説明が分かりやすいです。面白い逸話が多いので楽しめる本です。
靴の意味
ふつう、靴は足を保護するものと考えられがちです。
しかし、実際の所、ジャングル、泥沼、岩石地帯でも素足で歩く人たちもいますし、世界各地に散在する火渡り行事で燃える火の上を素足で渡る場合もあり、足の保護という観点から靴を穿くことは説明できません。
むしろ、靴によって人間の足は変調をきたしました。
タコ、魚の目、靴ずれ、外反母趾等々、人間のもつ足病はじつに40種あるといわれます。また、ハイヒールを想起すれば足の保護具ではなく凶器です。
このように、足と靴の関係は人類史上、それほど長いものではありません。
足の魅力と靴の魅力(フェティシズムとの関わり)
もちろん、女性が靴を履いた時の魅力は大きいものとはいえ、そこには大きな溝もあります。
たとえば、第16章「足の愛好家」では、女性の足に熱狂して一生を過ごす男性は単に賛美や逆上せではなく、成熟した性的情熱が原動力にあると記されています。これが足のフェティシストです(以上、259頁)。
他方、第17章「靴の愛好家」ではイタリアの著名な医師・人類学者のチューザレ・ロンブローゾの説を紹介し、素足にもストッキングを穿いた足にも快感が得られない人たち(靴のフェティシスト)は着衣性向やバイセクシャル的な傾向があります。ただし、好みはうるさいそうです(以上、279頁)。
靴の逸話
訳者後記で挙げられている靴の逸話は次の通りです(いずれも379頁)。
- 18世紀頃までイギリスではハイヒールを履いて男性を誘惑し、結婚した場合にはその結婚を無効とされていた。
- アメリカでは南北戦争の時まで靴に左右の区別が無かった。
- 古代ローマの詩人オウィディウス、ペルシアの詩人ハーフィズ、イタリアの文筆家カザノヴァ、フランスの作家ド・ラ・ブルトンヌ、ドイツの文豪ゲーテ、イギリスの小説家トマス・ハーディたちは靴のフェティシストだった。
私が面白かった足の逸話は次の通りです。
- 纏足女性の筋膜は柔らかくふくよかなので、男性は交合前の性愛でヴァギナ代わりに用いた(54頁)。
- 朝鮮、日本、インドネシア、モンゴル、チベットその他のアジア諸地域でも、少ない割合だが纏足が行なわれていた(57頁)。
- ストッキングやハイヒールは人体の輪郭を変える。ストッキングを穿くと骨盤前方から後方への平均角度が約25度になり、2インチのハイヒールの場合だとその傾斜は45度にもなり、3インチだと55度にもなる(224頁)。
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