ヴァルター・ベンヤミンは『パサージュ論』の中で、モードの特徴をつかむ短文をいくつか書きならべています。
その中で、具体的な資料で確認できる箇所を取り上げ、ヴァルター・ベンヤミン が無意識に捉えたオート・クチュールの誕生に関する文章を説明します。
今回は、アール・ヌーヴォーの画家、彫刻家、衣服設計師であったヴィクトール・プルヴェ(Victor Prouvé, 1858-1943)について。彼はエミール・ガレ(Émile Gallé)のためにガラス作品と家具の装飾をデザインしたこともあります。テキストは以下です。
ヴァルター・ベンヤミン『パサージュ論』今村仁司・三島憲一ほか訳、岩波書店、2003年
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モードがいかに何にでも追従するものであるか。最新のシンフォニー音楽に標題がつけられているように、女性の夜会服にもさまざまな表題がつけられた。1901年に、ヴィクトール・プルヴェはパリで、「春の川岸」という題で優雅なドレスを発表した。[B2a, 10](ヴァルター・ベンヤミン〔2003〕128-129頁)
ベンヤミンの取り上げるヴィクトール・プルヴェの夜会服
ヴァルター・ベンヤミンのいうヴィクトール・プルヴェ制作の夜会服(ローブ)「春の川岸」は次の写真です。
このローブは1900年にプルヴェとFernand Courteixがパリの「Galerie des artistes modernes」で共同開催した展示会に出品されたドレスです。ナンシー派美術館に所蔵されています(以上、外部リンク「Ecole de Nancy – textile Prouvé」およびVictor Arwas, Art Nouveau: The French Aesthetic, Andreas Papadakis Pub, 2002, p.94)。土台の生地に絹、刺繍部分に絹モスリン(透明感のある薄地の経緯縮緬、シフォンとも)が使われ、カボション・カットの宝石がちりばめられています。
ベンヤミンが捉えたオート・クチュールの誕生
発表会(展示会)、換言すればコレクション(ファッション・ショー)をヴァルター・ベンヤミンが無意識に指摘している点が面白く、19世紀までの宮廷奉仕人であった裁縫師が自分の製品を献上・納品するのではなく、20世紀転換期にコレクションを通じて展示する方向に比重が移っていることをヴァルター・ベンヤミンが捉えました。これこそ、オート・クチュールの誕生です。
いずれにせよ、世紀転換期のモードに質感の低下があったこと、そして、その低下と引き換えに名前が重視されるようになったこと、この2点は重視したいと私自身は考えています。たとえて言うなら、物品が陳腐になると名前が顔を出す、あるいは、19世紀の物と人の豊かさは20世紀の物権・人権に代替された、といったところでしょうか。
ヴァルター・ベンヤミン『パサージュ論』今村仁司・三島憲一ほか訳、岩波書店、2003年
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Victor Arwas, Art Nouveau: The French Aesthetic, Andreas Papadakis Pub, 2002
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