本書はハリウッド映画と衣装を論じたエッセイです。
映画と衣装の間の見えないドラマを掘り起こすとのことで、デザイナーや女優ごとにエピソードが丁寧に書かれています。
1項目あたりに2~3ページ。場面写真が多くて読みやすく視覚効果も抜群です。
ファッション業界誌「繊研新聞」にサタデー・スペシャルとして連載を続けている一部をまとめた本です。連載記事以外に150枚ほど(6万字)を加筆し、ボリューム感が出ています。
『モード・イン・ハリウッド』
目次
- はじめに モードのインスピレーション―スターとデザイナー―
- 第1章 時代のモードを象徴するミューズたち
- 第2章 スターを輝かせたデザイナー
- 第3章 ヒロイン時代の終わり―レディスからメンズへ―
- おわりに―ヴィーナスとアントワネットの間―「水着美人」から「マドンナ」まで―
巻末にアカデミー衣装デザイン賞一覧、人名索引、映画題名索引が付されているので便利です。
第1部は各女優の説明に詳しく、その傾向は衣装よりも女優略伝に向いています。ハリウッド女優たちの略伝として使えます。
また、第2部はファッション・デザイナー(衣服設計師)に関する記載を集めています。これらをモードの歴史として捉え直すのが第3部。
モード・イン・ハリウッド:女優とデザイナーにまつわる映画衣装の逸話
そもそも、映画のクレジットにデザイナー名は出てきますが、きちんと映画を論じた批評や評論に服飾を焦点にしたものはほとんどありません。
本書はその不足を埋めてくれます。
映画と衣装の関係を知りたい場合、この本から出発するのがお勧めです。
人名索引、映画題名索引はいずれも詳しいので、以下では当サイトの注目するキーワードやキーパーソンがどうなのかを少し論じます。
第1章
まず、1930年代。
ギャルソンヌ・ルックの名残が多く語られます。
「”モダンガール”の元祖 クララ・ボウ」の次項目に「北欧の神秘的表情が魅力 グレタ・ガルボ」が述べられています。
クララ・ボウが2頁に対しグレタ・ガルボは3頁。次いで、ガルボと比較されやすいマレーネ・ディートリッヒが「ドイツからきたマニッシュ・ルック」のフレーズで述べられます。彼女には4頁が割かれていますね。
「パラマウント社がディートリッヒを輸入したのは、MGMの女王ガルボの対抗馬としてであった」(同書42頁)とのこと。42~43頁の「ハリウッドで”女王”たちが乱立・競演」にて、この辺りの事情を要約しているのが面白いです。当初はディートリッヒがガルボを追う形だったのですが、途中で立場は逆転します。
1950年代になると、映画は見ていなくても名前は聞いたことのある女優たちが増えていきます。
- 「恋多き”世界一の美女” エリザベス・テーラー」
- 「エレガントな令嬢女優 グレース・ケリー」
- 「官能のリズムにみちあふれていたマリリン・モンロー」
- 「”永遠の清純スター”オードリー・ヘプバーン」
見るべき映画が私たちの老後を占領しそうな勢いです。
以上は第1章で、女優に主眼が置かれていました。
第2章がデザイナーです。
第2章
まずハリウッド映画で避けられないデザイナーはイーディス・ヘッド。
「パラマウントに君臨した映画衣装のナンバーワン」と冠されています。
他のデザイナーを列挙しましょう。
ルメーア、トラヴィーラ、アイリーン・シャラフ、アイリーン・レンツ、ヘレン・ローズ、ウォルター・プランケット、オリー・ケリー、ユベール・ド・ジバンシー、セシル・ビートン、ギルバート・エイドリアン、トラヴィス・バントン、デオニ・V・アルドリッジ、アンソニー・パウエル、アン・ロス、テオドール・ピステック、ジェームス・アチェソン、ミレーナ・カノネロ、スカルノ・チャピーノ。
1980年代以降のデザイナーは簡単に紹介されています。
マリリン・バンス=ストレーカー、リチャード・ホーナング、リチャード・ブルーノ、マーリーン・スチュワート、エレン・ミロジニック、ジョン・モロ、ジェフリー・カーランド、アルバート・ウォルスキー。
第3章
第3章は、男女の映画衣装をトータルにまとめ直し、業界史を述べています。
たとえば、ハリウッドのスタジオシステムの変化、パリのオートクチュール業界のプレタポルテ進出と、その映画産業への影響、などの項目が映画策人や女優、それにデザイナーとの関わりなど。
なかなか読めないテーマです。
ジュリア・ロバーツやジョディ・フォスターにも言及しています。
最後に面白い企画として、巻末付録のアカデミー衣装デザイン賞一覧を元に「アカデミー衣装デザイン賞に見るモードの変遷」と題した分析がなされています。
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