本書は肉体の開放と表出(露出)に注目した20世紀モード史です。
絵図こそ少ないものの、丁寧な項目配分にもとづいて読みやすい文体で書かれています。
20世紀に変化が大きかった女性モードを中心に、女性の社会進出の拡大から男性衣装の拘束性が弱まった点を意識しつつ、やはり女性モードが身体表出にむかった点に重点をおいています。
著者である能沢慧子さんの本を私はいつも高く評価します。これには理由があって、著者は必ず西洋裁縫の技術を説明にとりいれているからです。
この点は「モードの社会史:西洋近代服の誕生と展開」にも触れておきました。
本書は「モードの社会史:西洋近代服の誕生と展開」の続編(20世紀版)に位置づけられそうです。
二十世紀モード:女性が描く女性らしさのファッション歴史
著者は20世紀モードがたびたび大転換をはたしたと考え、次のような転換をあげています。
- 飾られた身体からの解放
- 貧しいまでに簡素なスタイル
- 反抗のシンボルになったジーンズ
- 浮き彫りにされた脚の意味
- オートクチュールとプレタポルテ
- ポワレやシャネル
など。
深井晃子らその辺のファッション史家は金太郎飴のように「洋服は曲線」と触れまわってきましたが、本書は曲線裁断だけでなく直線裁断を重視したデザイナーたちもいた点を明記しています。
コルセットの放棄は、(中略)衣服の直線裁ちへの傾倒と結びつけられ、両社は表裏一体を成しているといえよう。ポワレ、ヴィオネ、フォルチュニー、キャロ姉妹、それからシャネル…。それぞれの個性によってスタイルを異にしながらも、ひとしなみにこの二つを基礎としている。能沢慧子『二十世紀モード―肉体の解放と表出―』講談社選書メチエ、1994年、74頁
20世紀ヨーロッパの衣装がしばしば直線的なラインを見せてきた根拠がわかります。
1920年代から1930年代初期の新タイプ女性「ギャルソンヌ」も女性衣装の簡素化に一役買いました。
シャネルのスタイルもそうで、やはり細くて直線的。これには貧しさを表現していると筆者はとらえます。
技術をみることで繋がるファッション歴史。
能沢慧子の本は読みやすいうえに深みがあり、本書も楽しく読めました。
女性像の変容では鋭い点を指摘しています。
20世紀は女性の脚の時代であり、またストッキングの時代だといっても過言ではないだろう。能沢慧子『二十世紀モード―肉体の解放と表出―』講談社選書メチエ、1994年
20世紀の女性モードは乳房にあると考える人が多いなか、少なくとも20世紀前半から中期にかけて脚部や足部とストッキングに美意識があった点を明記しています。
この美意識はチャイナドレス(旗袍)にも影響を与えたもので、中国服装史からみても斬新な指摘です。
そして本書は、いくつかのエピソードを交えながら、シルク・ストッキングやフルファッション・ストッキングからシームレス・ストッキングやナイロン・ストッキングの歴史へと進みます。
デザイナー、技術、女性・モデル、アイテム、時代をうまく繋げて一つのモード史として描いた点では『20世紀モード史』よりすぐれていると感じました。
日本の西洋モード史研究者って深井晃子のように嘘臭いのが多すぎるなか、能沢慧子氏の本2冊で十分、ヨーロッパのファッション歴史を理解できます。2冊とも強くおすすめします。
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