本書はブランドはどのように成立したのか、海外ブランドになせ日本の消費者はあこがれるのか、などの疑問を解決するために、前史として欧米ブランドの歴史を分かりやすく紹介しています。
ブランドの世紀:時間と地域とブランドを旅する本
貴族社会の黄昏から近代社会が誕生する頃の事情(ブランド前史)をロンドンとパリから出発し、ブランド好きな消費大国としてアメリカと日本(東京)を取り上げています。
著者の言葉を借りれば本書は「大英帝国発、パリでトランジット、それからアメリカ市場を経由して、最後に日本に着地するという資本主義周遊ツアー」(7頁)です。歴史を旅しながら≪なぜ自分はブランドが好きなのか≫という自分探しの旅にもなります(と著者自身も自負しています)。
ロンドンは男性ダンディズムの黒、パリは女性の旅行や外出のトランク、バッグ、香水に焦点が当てられます。
パリはもちろんファッションの結集点、アメリカはポワレやシャネルが作品を公表しに行った場所であり、また『ヴォーグ』などのファッション雑誌やモダンガールという消費者像が大流行した場所でもあります。
日本の箇所では竹久夢二のイラストが百貨店広告になっていたと知って夢二に少し興味が持てました。
難点
著者の本領は19世紀フランス(特にバルザック)なので仕方ありませんが、いつも19世紀後半から掘り起こして20世紀の叙述が1950年代で終わっているのが残念です。
日本は雑誌「アンアン」などを取り上げて20世紀末の女子ファッションにも触れていますが、それはあくまでも1920年代のロマン主義的なファッションの回帰的なものとして捉えられているだけです。
シャネルを好きなのは分かりますが、マリリン・モンローの5番エピソードで終わるのはちょっともったいない。
かねてから、1920年代シャネルの登場と1960年代クレージュの登場を著者の視点からまとめてほしいと著者に思っています。が、2016年に亡くなられて夢叶わず…。
目次
- はじめに
- 第1章「大英帝国から」(スーツと憂鬱、ヴィクトリアン・ブラック、リゾートの風、英国式ハイライフ、スーツの越境・黒の越境、青列車: パリへ)
- 第2章「メイド・イン・パリ」(ルイ・ヴィトン、ベルエポックの夢の箱、かしこには,悦楽、はじめに「梱包」があった、ライン革命、トランク名士録、不思議の国のエルメス、エルメスもピクニック、馬車こそブランド、エルメスはなぜバッグをつくったか?、エルメスのいちばんおしゃれな使い方、女王の香水ゲラン、詩人とブランド、無のきらめき、名の魔術、ブランド作用バリという宝石、1900年: 過去と未来の結婚、「世紀末」という流行、世界の首都パリ、イリュージョンの宮殿、金利生活者の方舟、モデルニテの宗教)
- 第3章「アメリカ市場」(はじめに、ポワレがいた、シャンゼリゼのお客さま、二つの「名」の力、ポワレ・ブランド、全商品にグリフ、アメリカはブランドが好き、《マス》のアメリカ憧れのヴォーグ、ティファニーで朝食を、ドリーム・メディア、ファッシパリ・モードとその鏡写真の黄金時代、シャネルのアメリカアメリカに《ウイ》 、シャネルという名のフォード、ダイヤモンネル、夢の名前、アメリカン・ドリームドよりシャドルと肉体、モダンガール、世界の金持ち、タイタニックの時代、踊る肉体、ファッショナブル・ボディ)
- 第4章「東京ブランド物語」(東京モダンガール、化粧する女たち、ブランド以前、西洋かぶれ、化粧する女、フラッパー、モダンガールとコンパクト、大衆の方へ、夢二ブランド、「あいいもの」の領域、 署名されたスタイル」、シャネルのようにブランドがいっぱい、rアンアン 』から、ブランドと大衆の「おかしな」関係、モードも好き、ブランドも好き、エルメスの似あう女、 <ブランド>オタク、女の子ご用達、ガジェット・ラヴァー、偶像崇拝者たち、メディア空間オンリー二000年のナオミたちモダンガールふたたび、メディア的身体、ガジェットの河)
- あとがき、ブランドについてもっと知りたい読者のための文献案内。
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