「放浪のデニム:グローバル経済に翻弄されるジーンズの世界」は普段よく穿くジーンズをつうじてグローバル経済を述べたものです。
重層的に製造される衣料品には「Made in」のラベルが意味の無いものだということを知ります。
本書の一番の醍醐味は世界中に蔓延している「Made in China」の製品が中国製ではない点を指摘した点です。
特徴
一つの事項からグローバル経済を論じる手法は、最近流行っています。
ピエトラ・リボリの『あなたのTシャツはどこから来たのか?』を以前に紹介しましたが、一冊にまとめるのは大変な作業です。
実際、リボリは本書について「1本のブルー・ジーンズに織り込まれた人びとのストーリーがここにあります。
レイチェルはそれらを記者の視点と人間味あふれる心でとらえています。お気に入りのジーンズをはくとき、きっと彼らのストーリーを思い出すだろう」 と推薦しています。
徹底した取材
本書の著者スナイダーもまた、ニューヨークやイタリアのデザイナーの事務所を訪ね、旧ソ連アゼルバイジャンの綿畑やカンボジア・中国の衣料品工場では過酷な労働状況を目の当たりにしています。
しかし、本書を読んでいると、グローバル経済で指摘されることの多い搾取工場の実態といったルポルタージュよりは、じっくり時間をかけて書かれた印象を受けます。
もちろん、本書が示すように、梱包前の衣料品には大量の化学物質が使われ、労働者の身体を蝕んでいますし、縫製工場の低賃金労働は依然として搾取問題の中心になっています。
しかし、訳者が述べるように、本書は貧困問題、健康問題、環境問題、複雑な関税制度を取り上げるものの、告発や啓蒙のジャーナリズムでは無く、ジーンズ生産に関わる人々の物語に近いものです。
経済学的にいえば労働よりも労働者を扱ったもので、綿畑の労働者、品質選別官、縫製工場で働く女性、ジーンズを愛するデザイナー、ブランド経営を通じて貧困問題に取り組む音楽バンドなどの言質が取られ、悲惨そのものよりも悲惨に立つ人々が活写されています。
- 綿の原産国・アゼルバイジャンの苦悩
- 高級ブランド大国・イタリアの憂鬱
- カンボジアの命運を左右する衣料工場
- 巨人・中国の取り組みと可能性
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