本書は国際理解を目的とした民族衣装の絵事典です。
サブタイトルに「装いの文化を訪ねてみよう」とあるとおり、各地域の衣装だけでなく着方やその地域の人々の生活を垣間見ることができます。
写真やイラストが多く文字も大きめですので小学生にも十分楽しめる内容になっています。全文にふりがなも付いています。
今の私たちはどこへ行っても似たような洋服を着ていますが、なかにはまだ昔ながらの服を着ている人たちもいます。そういう人たちと出会う楽しみを本書から感じとれるはずです。
国際理解に役立つ民族衣装絵事典
この本は民族衣装の専門家集団が書いているにもかかわらず、とてもわかりやすく丁寧です。
スタッフは次のとおりです。
- 監修:高橋晴子
- 編集:MCDプロジェクト
- 協力:国立民族学博物館
高橋晴子さんは近代日本の衣服文化を装いの観点からとらえた専門家。高橋先生も参加されている身装データベースを担っているのがMCDプロジェクトで、バックアップに民博という重層的で強力なスタッフ構成。
現地へ行っていろんな人たちと地域ごとの文化をともに楽しんだ先生方が書いていらっしゃるので、とてもポイントを押さえた説明です。
パラパラとめくっているだけで具体的に自分も一緒にいるような感じで読むことができます。
少し長くなりますが「みなさん、はじめまして」と題した「序言」を引用します。高橋先生の活き活きした衣装への思いを感じ取ることができるはずです。
衣服につづられた模様にまで特別な意味があったり、ほとんど衣服を身につけないのに、ふんどしなど、身体の一部につけるものがとても大切にされていたり、はては、布からだけではなく、いろいろな素材をつかって、衣服やアクセサリーが作られたりしています。それに、ジャケットなどの洋服が、民族衣装のなかに、うまく取りこまれていたりもします。MCDプロジェクト編『国際理解に役立つ民族衣装絵事典―装いの文化をたずねてみよう―』PHP研究所、2006年、2頁
民族衣装への何気ない案内ですが、衣装を知る多様性に満ち溢れた文章です。
ふつう、衣装というと布を真っ先に想像する人たちが研究者にも多いのですが、布だけでなく衣服その物やアクセサリーにも意味があると指摘しています。
さらに大切なのが、日本の着物偏向者に多い「洋服じゃなく和服」という錯覚を拭い去るような指摘、つまり洋服が民族衣装にうまく取りこんでいるという指摘。
排除じゃなく融合という観点が21世紀の子供たちには必要です。
着物偏向者って国際理解や国際協力に何の役にも立たないですよね。
それに着物好きの人にかぎって自分の着物しか知らないんですよね。
この指摘が意味するのは、民族衣装の洋服化であり、和服の洋服化であるわけですが、私のように「着物は日本の伝統じゃなくて洋服そのものだ」という極論をさけ、融合した側面を楽しくとらえていらっしゃる点に感服します。
本書の構成
本書は5章に分かれています。
- アジアの民族衣装:7国・地域
- ヨーロッパの民族衣装:3国・地域
- 中東・アフリカの民族衣装:2国・地域
- 南北アメリカの民族衣装:3国・地域
- オセアニアの民族衣装:2国・地域
最後には「もっと知りたい民族衣装」としてデータベースを体験する案内や民博(みんぱく)の紹介もあって、本書の経験がリアル体験と結びつくように設計されています。
各章がとりあげた国や地域の数は多くありません。
でも、次の例のようにかなりコンパクトで構成的に仕上がっています。
左ページの上に緑の文字で導入が書かれていて、その下は写真が数点と説明。
右のページには歴史の話から民族アイテムの話までをコンパクトに説明して、右下には特徴的なテーマで1枚の大きい写真を載せています。
感想
この本が楽しいの点は融合を視点にしていることです。
ふつう世界史は大航海時代からヨーロッパ文化が世界に広がったと教えます。そして多くの人はヨーロッパ文化要素を抜いて自国の文化を考えようとします。
でも数百年も根付いてきたヨーロッパ文化を抜けられるわけがありません。たとえば着物にヨーロッパの要素は染みついています。たとえば外部リンクの「和服の洋服化」をご覧ください。
本書は「伝統と外来のものがとけあった」という視点から今の民族衣装のダイナミズムを伝えてくれます。
これが素晴らしい点です。
グローバルな時代を生きてグローバルな出会いをとおして世界人となる子供たちが見て音読して想像して、そんなグローバル体験を1冊でできちゃうとっても楽しい本です。
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