日本映画女優史
本書はトータルな日本映画女優史です。
1910年代半ばの女形の時代から1960年代半ばのポルノの登場まで、約半世紀の日本映画に出演した女優たちを紹介しています。
構成を見ますと、前半は日本映画女優史フォトアルバム(約160頁)、後半は文章中心の日本映画女優史(写真は1頁1点ほど)が約70頁、最後に主要映画女優名鑑が約30頁です。
分量的にこれ一冊で戦前・戦後の映画女優史を鳥瞰できます。
情報量が多く、映画評論家・映画史家の佐藤忠男と吉田智恵男が書いているので、生年月日順女優名鑑などのマニアックな項目も巻末に付されています。
本書の注目する女優の低位
欧米の映画では女性の立場は当時の日本映画のそれよりも高いものでした。
日本の映画産業が始まった当初は男性が女性に扮した女形が多く登場しますが、欧米に比べてその女性像はかなり低いものに描かれています。
1920年代になって女優は、女性が社会に対して自己主張できるわずかな職業として登場しますが、世間的な評価は、芸者、女給、ダンサーとあまり変わらない、尊敬に値しないものとされていました。
そのような低位ゆえに戦前期の映画界では、軽薄な内容を演じながらもその積み重ねの上に、驚愕に値する女性の意地を見せつけるような作品も登場してきます。
大学卒業者のほとんどいなかった当時の業界には既成芸術への抵抗があり、男尊女卑の風習における女性の嘆きや諦念や憤激とマッチし、濃厚な映画文化を生みました。
他方で、労働基準法の無い当時にあってメチャクチャな労働条件で撮影が行なわれたため、松井千枝子や及川道子らが30歳足らずで他界するという事例もしばしばありました。
評者の関心
以上のように、本書は戦前期映画を詳細に扱っているので貴重です。
私の大好きな、今ではベテラン女優の岩下志麻が日本映画1世紀の歴史では後半の世代に入ると改めて感じますし、私の小さい頃にとっくにお婆ちゃん女優だった田中絹代が真ん中辺りを生きていたこと、映画業界勃興当初は男性が女性に扮していたことなど、やや断続的ですが過去を思いながら読み進められます。
『日本映画女優史』の構成
本書の構成は
- 日本映画女優史フォトアルバム
- 日本映画女優史
- 主要映画女優名鑑
- 生年月日別映画女優一覧
です。
「1」のフォトアルバムは時代別に分けられ、たくさんの女優の写真が載せられいます。簡単なテーマ説明があり、時代時代の雰囲気が分かりやすいです。
「1」のテーマだけ以下に列挙します。
日本映画女優史 日本映画女優史フォトアルバム
- 女形の時代
- 映画女優の草分けナンバーワン
- 松竹蒲田初期
- 日活京都派
- 酒井米子、梅村蓉子
- マキノ映画
- 帝国キネマ、東亜キネマ、他
- 蒲田から大船へ
- 松竹全盛期
- 松竹京都派
- 多摩川女優群
- 戦時下の女優たち
- 大都映画の女優たち
- 子役
- 女だてらに(猛婦的女優)
- 脇役専門
- 東宝の女優たち
- 敗戦と女性映画
- 戦後第一期の新人たち
- 女ざかり
- 少女歌劇とレビューから
- 1950年代の若手スタアたち
- 時代劇の若手スタアたち
- 女性映画の黄金時代
- 喜劇女優
- 歌手兼女優
- 新劇女優
- 庶民派・生活派・母もの
- 子役たち
- ふけ役
- 国際交流
- さらば女らしさ
- 60年代の若手スタアたち
- 女剣劇・女賭博師
- 純情派
- 女性映画の厳しい道
- ピンクとポルノ
評者の関心2
最後に「3」の「主要映画女優名鑑」から私の好きな女優4名の簡単な説明を紹介します。
- 浅丘ルリ子…「眼のでっかい少女から、頬骨の張ったエキセントリックな演技派へ。「憎いあんちくしょう」あありの熱気はすごかった」(242頁)。
- 岩下志麻…「ホームドラマの娘役からメロドラマのヒロイン、そして芸術エロチシズム映画の大スタアへ。篠田正浩監督夫人」(244頁)。
- 栗原小巻…「女性映画の衰退期である1970年代に、純愛映画のヒロインとして人気を持続する貴重な存在」(250頁)。
- 田中絹代 …「映画俳優生活を長く続けているのは彼女だ家では無いが、常にスタアあるいは準スタアの位置を保ったまま50年をすごすということは至難の業である。この点、彼女は世界の映画史でもマレな存在ではないか」(256頁)。
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